夏休みに入った小林少年は、明痴先生にキャンプに連れていってもらうことになっていました。ところが、明日はキャンプに行く日だというのに、珍しいことに明痴先生は、本業の探偵の仕事が忙しく、どうも夏休みどころではなさそうなのです。
「小林君、すまないが、俺はいっしょに行けそうにないよ。」
明痴先生のこの言葉を聞いて、明痴先生とのキャンプ性活を楽しみにしていた小林少年はがっかりしてしまいました。
「えー、僕、新しいパンツも買ったのに……。」
小林少年は、最近、ピンクのビキニブリーフに凝っているのです。
「俺は、キャンプにはいけないけど、大学の後輩に、俺のかわりに小林君をキャンプに連れて行ってくれるように頼んであるから、我慢してくれよ。」
『大学の後輩』という言葉を聞いたとたん、小林少年の目がキラリと光って、べそをかきそうになっていた顔がいきいきしはじめました。
「大学の後輩って?」
明痴先生は、その現金な態度に苦笑してしまいました。
「大学の同好会の後輩で、広田、っていうんだ。」
明痴先生の後輩って、どんな人だろう、と好奇心のかたまりになった小林少年は、
「まだ、学生なんですか?」
明痴先生に質問しました。
「そうだよ。」
もし、明痴先生の後輩で、まだ学生だとしたら、明痴先生とはかなりの年齢差があります。いったいどういう後輩なんだろう、と小林少年は疑問に思って、
「後輩って……。」
もっと詳しい話を聞こうとしました。けれども、明痴先生はあまり話したくなさそうに、仕事が忙しいふりをしているのです。それで、小林少年は、とりあえずそれ以上聞かないでおくことにしました。というのも、明痴先生が腕時計を、ちら、と見て、
「そろそろここに来ることになっているから……。」
と言うので、大人しく待っていることにしたのです。
 すると、ドアが勢いよく開いて、
「すいません、遅くなっちゃって……。」
話題の人物が明痴事務所に飛び込んで来ました。
「どうしたんだ、遅かったじゃないか。」
明痴先生は、その学生のがっしりした肩に手を置きながら、ちょっと心配そうに尋ねました。
「いやあ、道が混んじゃって……。」
その学生は、頭をかきながら言い訳をしましたが、
「車で来たのか?」
という明痴先生の言葉に、
「もちろん、地下鉄ですよ。」
なんて言うところをみると、小林少年とはいいコンビになりそうです。
「これが、俺の後輩の、広田、だ。」
小林少年と向かい合った広田君は、小林少年をひとまわり大きくしてがっしりした感じの、なかなかおいしそうな男なのです。
「こいつが、例の小林君だ。」
明痴先生に紹介されながら、小林少年はドキドキしてしまいました。眉毛の濃いところがいいな、と思って、小林少年が、
「よろしくお願いします。」
あいさつすると、
「やあ、俺のほうこそよろしく……。」
広田君も、頭を下げながら、よく陽にやけた頬をほんのちょっと赤らめたような気がしました。
「気をつけろよ、まだまだてんでガキだけど、体だけは立派に大人だからな。」
明痴先生は、二人の様子に、なんとなく平常心を失っているようです。
「僕、ガキじゃないですよ。」
小林少年が口をとがらせて抗議すると、広田君は、
「それは楽しみだな。」
と、笑いながらなかなか意味深なことをつぶやきました。
「え?」
小林少年は、何が楽しみなんだろう、と、わからないふりをしていましたが、その割には耳たぶまで赤くして照れています。
「キャンプのときに、確かめさせてもらおう。」
広田君が小林少年を、ちら、と見ながら言ったので、小林少年は、
「広田さんはどうやって僕のことを確かめるつもりなんだろう。」
と、ドキドキしましたが、
「そんな……。」
相変わらず、広田君の言葉の意味がわからないふりをしていました。
 そんな二人に、明痴先生は、肩をすくめながら、
「おまえら、何をやってるんだよ。」
あきれたようにつぶやきましたが、小林少年は、広田君の逞しそうな下半身に見とれていて、明痴先生の言うことなんか聞いていません。広田君も、思わせぶりに、ジーンズのポケットに手を突っ込んだりして、怪しい雰囲気です。
「明痴先輩、小林君を借りていっていいですか?」
明痴先生は、どうやら、広田君を小林少年のお守役にしたことを、後悔しているようで、
「まったく、おまえも見境がないんだから……。」
ぶちぶち言っていましたが、こういうのを、後悔先にたたず、というのでしょうか。
「明痴先輩だって人のことをとやかく言える立場じゃないでしょう?」
広田君にそう言われて、
「やれやれ、まあ、好きにやってくれ……。」
明痴先生も、ようやくあきらめたようです。
「お茶でも飲みに行こうか……。」
広田君に、にこっ、と笑って誘われてしまえば、小林少年が断るはずがありません。明痴先生はそれでもまだぶちぶち言いながら、キャンプに行けなくなってしまった原因の仕事をやり始めました。
「明日のキャンプでたっぷりできるんだから、今日はお茶だけにしとけよ。」
机の上の書類と格闘を始めながら、明痴先生がそう言って二人を送り出したのは、きっと妬いているのでしょう。
「俺の部屋に来ないか?」
明痴先生の事務所のドアを閉めたとたんに、広田君は小林少年の耳元にそうささやきました。
「いいんですか?」
小林少年は、すっかり発情してしまって、目が潤んでいます。
「もちろんだよ。」
広田君も、ジーンズのポケットに突っ込んだ手をぐっと動かして、どうやら堅くなってしまったものの位置を楽な方向に修正したようです。