こけし太郎

金曜日, 2月 28, 1986

 こんなふうに太郎と次郎は、仲睦まじく暮らしていたのですが、ある日、次郎が、突然、熱病にかかってしまい、太郎の看病にもかかわらず亡くなってしまったのです。
「兄さんを一人残しておくなんて、できないよ……」
次郎は、最期まで、太郎の手を握って、熱にうなされながらそう言うのでした。
「次郎……。」
あんまり突然でしたから、次郎がいなくなってしばらくの間、太郎は何も手に着きませんでした。
 一日中、ぼんやりとしていて、はっ、と気がつくと、もう、あたりはすっかり夕闇に包まれているのです。
「もう、寝よう……。」
本当なら、部屋の襖がそっと開いて、太郎の寝ている布団に、次郎の暖かい体がもぐり込んでくるはずなのに、家の中は太郎以外に誰の気配もしません。
「次、次郎……。」
恥ずかしがっていやがるふりをする太郎に、すっかり褐色になってしまったこけしを押しつけて、いろいろな悪戯を仕掛けてくる次郎だったのに。そんなことを思い出すと、太郎は、たまらなく寂しくて、
「これが、次郎の、たった一つの形見なんだ。」
と、こけしを握り締めながら、泣き寝入りしてしまいました。
 ぐっすり眠っていた太郎ですが、下半身がむずむずするような、言いようのない寝苦しさに我に返ると、誰かが体の上にのしかかって、下腹部を悪戯していました。
「だ、誰だ……。」
太郎は、なんとか相手を押しのけようとするのですが、がっちりと押さえ込まれているので、どうしようもありません。それに、いつの間にか褌の脇から引きずりされているものは、生暖かい刺激を受けてびんびんになっています。そのあまりの気持ちよさに、相手を押しのけようとする両腕の力も、ついついゆるみがちです。ここしばらく次郎のことで禁欲していましたから、気持ちはともかく、体のほうは出したくてたまらなかったのです。
「あっ、そんなところを……。」
すっかりゆるんでしまった褌の間から、ぬるっとしたものが、太郎の尻の穴を狙って、忍び込んできています。
 その、熱く堅いものに、尻の穴を、つんつん、と突っつかれると、もう、太郎は抵抗できなくなってしまいました。
「あ、あ……。」
それどころか、自分から腰をくねらせて、その熱く堅いものをねだる始末です。
「欲しいんだろう。……こいつを押し込まれたくて仕方ないんだろう。」
耳元でささやく声に、太郎は、
「入、入れてくれ、早く……。」
と、恥ずかしさも忘れて、尻を、ぐい、と突き出してしまいました。
「ほら……。」
かたいものが、ぐ、ぐぐっ、とねじ込まれてくるのを感じると、太郎は、もうそれだけでいってしまいそうになりました。
 すると、その時です。太郎の耳に思いがけない言葉が飛び込んできました。
「まだいっちゃ駄目だよ、兄さん。」
それは、紛れもなく、死んだ次郎の声です。
「次、次郎……!」
太郎が驚いて、相手の男をはねのけようとした時、太郎の体の中に押し込まれた堅い棒が、ずるっずるっ、と動き始めたのです。
「あ、ああっ……。」
途端に、太郎の体からは力が抜けてしまって、
「俺に抵抗しようなんて、無駄だよ。」
太郎の体で堅くなっているのは、下腹部のものだけになってしまいました。
 毎日寂しく過ごしていた太郎にとって、久しぶりの刺激は、かなり強かったようで、太郎の堅いものは真っ赤になって、快感を求めて、ひくひく、動き始めました。それなのに、
「まだだよ、兄さん。」
次郎の声と共に、太郎の尻に埋め込まれていたものは、ずるっ、と引き抜かれてしまったのです。
「ああっ……。」
太郎は、思わず、自分の手を下腹部にもっていこうとしましたが、その手も、強引に振り払われてしまいました。
「頼む……、何とかしてくれよ。」
あと少しなのに、と、太郎は、卑わいに腰をくねらせましたが、太郎のいきり勃ったものが、ぶるん、と大きくゆれて、透明な露をしたたらせただけでした。
 太郎はどうしようもなくなって、空しく腰を上下させ、堅く反り返ったものをゆすって何とか快感を得ようとしました。
「いやらしいなあ、兄さん。」
次郎の含み笑いがして、太郎の感じやすくなった乳首が、ぺろ、となめられました。
「うっ……。」
その刺激に、太郎は、体を、びくん、と弾ませて、声を上げずにはいられません。
「こんなに淫乱な兄さんを、一人で残しちゃおけないからな。」
次郎はそう言いながら、さっきから堅いものを欲しがってひくひくしている太郎の尻の穴に堅いものを突きつけて、
「欲しいかい、兄さん?」
わざとじらせるのです。
「は、早く……。」
太郎は、生つばを飲み込みながら、期待で全身を堅くしました。
 ところが、太郎の尻の穴に突きつけられてたものは、ぬるっ、と上下に動いただけで、
「その前に、兄さん。」
また、太郎ははぐらかされてしまったのです。
「あ、あ……。腰が変になってしまう。」
太郎の下腹部は充血しきって、あとほんの少しの刺激でも飛び散ってしまいそうです。
「明日、陽が傾きかけたら、お代官様の屋敷へ行くんだよ、兄さん。」
太郎の尻の穴の入り口を堅いものでぬるぬると上下にこすりながら、次郎はそう言いました。
「兄さんには、俺の分まで幸せになって欲しいんだ。」
次郎にそう耳元でささやかれて、太郎は、ぞくっ、と体を震わせました。
「いいね、わかったね、兄さん。」
次郎はそう念を押してから、ぐぐっ、と太郎の体の中に割り込んできたのです。
「うっ、あ、ああっ……。」
ずずんっ、と体の奥まで埋め込まれるのを感じて、太郎は、もう我慢できずに、びゅっ、びゅっ、と迸らせてしまいました。その背骨を突き抜けるような快感に、太郎は、気が遠くなってしまったのでした。