こけし太郎

金曜日, 2月 28, 1986

 次の日、太郎は、朝起きるとすぐ、いつになくさっぱりした着物を着て、村の方へ歩いていきました。とにかく、お代官様の屋敷の様子だけでも見ておこう、と思ったのです。屋敷の方へ歩いて行くと、なにやら人だかりがしています。お代官様の屋敷の門の前に、たくさんの人が集まって、みんな、口々に何かを言っていました。
「何かあったんですか?」
太郎が近くの人に尋ねると、その人は、
「なんでも、お代官様の子供の教育係を探していて、お代官様の気に入れば、ほうびは思いのまま、とかいうことだ。」
と教えてくれました。
 人だかりに中心には、もっと詳しく書いたものが貼りだしてあるらしいのですが、何しろ人がたくさんいるので、人の頭の陰になってよく読めません。
「あっ。……危ないじゃないか。」
太郎がもっとよく読もうと身を乗り出した時、人垣が大きく揺れて、太郎は人だかりの中心に押し出されるような形になってしまいました。
「おまえも受験するのか?」
恐い顔のお侍が、太郎の二の腕を、ぐい、とつかむと
「お、俺は……。」
太郎が言い訳をする暇もなく、屋敷の門の中に引きずり込まれてしまったのです。
 そうして、太郎は、何がなんだか、訳のわからないままに、周りにいた数人の屈強な男達といっしょに、庭の方へ連れて行かれたのです。
「さあ、ここだ。」
庭に面した部屋には、お代官様の子供らしい人が一人で座っています。それは、もう子供と言うよりも、ほとんど青年にまで成長した若者でした。
「よし、それでは、着ているものを脱いで、裸になるんだ。」
多少は体に自信のある太郎でしたが、こんな状況で褌だけになるのは抵抗がありました。
「ぐずぐずせずに、さっさと脱ぐんだ。」
案内してきたお侍の有無を言わせない声に、仕方なく太郎は褌だけになりましたが、まだ初々しい若者の視線を自分の胸の筋肉や褌の盛り上がりに感じて、思わずうつむいてしまいました。
 若者がうなずくような動作をして、ちら、と太郎の方を見たような気がしました。
「よし、では、こっちへ……。」
さっき案内してきたお侍が出口の方を指したので、みんなは若者に選ばれなかったことに大きなため息をつきました。
「あーあ、俺は、顔よりも褌の中身で勝負したかったのになあ。」
とりわけ大きく褌が盛り上がった男が、その盛り上がりをこするような仕草をしながらそういうと、出口の方に歩きかけていた男達から、どっ、と下卑た笑いが起きました。
 出口のところに立っているお侍も苦笑しています。
「いったい、何だったんだろう。」
まだ、その若者の教育の意味がよくわかっていない太郎は、きょとんとしたまま、みんなについて出口の方へ歩き始めました、すると、
「おっと、おまえはこっちへ来るんだ。」
太郎は、出口のところのお侍に。ぐっと肩をつかまれて、今度は屋敷の中へ連れて行かれました。
 そこは、昼間だというのに、雨戸が閉め切られていて、ろうそくが、あかあか、と何本も灯っていました。
「よし、ここで、しばらく待っているんだ。」
太郎がその座敷に入っていくと、褌だけの裸の男が、すでに五人ほど座っていました。五人とも、なかなか逞しい男で、太郎は目のやり場に困ってしまいました。もちろん、そうは言いながらも、太郎は、ちゃんと、ちらちら、その男達の裸を観察しています。
 浅黒い肌に童顔があどけない男や、逞しい筋肉とへそから生え上がって胸毛まで続く体毛をもった男、そして、特に興奮しているふうでもないのに褌が窮屈そうなぐらいに盛り上がってしまっている男など、どの男を見ても太郎は胸がどきどきしてしまいました。その中で、太郎が一番気に入ったのは、太郎の斜め前で太郎の方に向かってあぐらをかいている男でした。
「……。」
たぶん、太郎よりも若いだろうその男は、すっきりした眉毛とよく締まった筋肉質の体をしています。盛り上がった胸の乳首は、ぷつん、と張り切っていて、太郎は、思わず息が弾んでしまいました。
 あんまりじろじろ見てはいけないと思うのですが、ついつい気になって、その男の方を見てしまうのです。その男も、太郎の視線を意識しているのか、太郎の方をちらちら見ています。
「……。」
ごくっ、と若者ののどが動いて、その視線が、太郎の胸からだんだん下腹部の方へ、なめるように降りていくのを太郎は感じました。太郎は、あぐらをかいた両ひざをがっしりとつかんで、ぐっと耐えようとしましたが、その男の視線が自分の褌の前褌に釘付けになってしまっているのを見て、その褌の中身が、ぐっぐっ、と急激に大きくなり始めるのを止めることができませんでした。
 出かける時にしっかりと締め込んだ褌の中で、窮屈な姿勢のまま堅くなりつつあるものを、何とか楽にしようと、太郎は尻を浮かせてみたり、ちょっと腰を突き出すようにしてみたり、いろいろやってみましたが、かえって褌の中のものを刺激するだけで、ますます窮屈になってしまいました。それで、どうしようもなくて、太郎は褌の脇から指を入れると、
「う……。」
素早く、熱くほてった肉柱の方向を修正してやりました。そんないやらしい行為をしているところをその男に見られているのはわかっていましたが、それがかえって太郎の下腹部を刺激して、ぐりっ、と褌の盛り上がりの方向を真上に修正した時、太郎の腰には鈍い快感が走ったのです。