太郎君の地獄めぐり 6

日曜日, 1月 31, 1982

 そこには、さっきの恥ずかしい形をした棒を持っていたのとは別の鬼がいました。その鬼達は、手に手に、やっとこやのこぎりを持っていたのです。
「うわ、あれで舌を引っこ抜いたり、胴体を切ったりするんだろ?……痛そうだなあ。」
太郎君がそう言うと、悪魔はまたちょっと苦笑して、
「残念だけど、ちょっと違うんだな。」
「え?」
太郎君が悪魔の顔を見ますと、悪魔は、
「行ってみればわかるさ。」
と、言ったまま、どんどん歩いて行きました。太郎君の目の前には、一人の逞しい男が、全裸で、石の台の上に寝転がっています。その男に、一人の鬼が何かを尋ねたようでした。けれども、その男は、首を横に振るだけで何も言おうとしません。
「強情な奴め。」
鬼がそう言って、何か合図すると、荒縄が持ち出されて、その男は石の台に大の字で、手足を縛り付けられてしまったのです。太郎君は、いったいどうなることかと、はらはらしながらその様子を見ていました。
 大きなやっとこと、のこぎりが持ち出されました。
「答えないと、痛い目にあうぞ!」
鬼が大声で尋ねましたが、縛り付けられた裸の男は、やっぱり何も言わないまま、首を横に振るだけでした。
「よし、おまえがそういうつもりなら、まずこいつで痛い目にあわせてやる。」
そう言って鬼は、やっとこを男の目の前で開いたり閉じたりしました。すると、大きく開かれた男の股の中心で大人しくしていたものが、ぐっぐっ、勃ち上がり始めたのです。何の刺激も受けていないのに、それはずんずん大きくなり、引き締まった腹に向かって伸び上がりました。
「すごいなあ……。」
赤黒く傘を開いた部分の熟れ具合は、太郎君が思わず声を上げてしまうほどでした。
 鬼は、男に見せつけるようにしていたやっとこを持ち替えると、無防備な男の裸に近づけていきました。
「あれ……?」
太郎君は、てっきり舌を引っこ抜くのだと思っていたのですが、どうもそうではないようです。鬼は、男の胸にぽっちりとのっている乳首を、手にしたやっとこで、ぎゅっ、とつまみました。
「あうっ……。」
裸で石の台に縛り付けられている男の口からはうめき声がもれました。けれども、それは痛いからというよりは、快感のうめき声のようでした。そして、さっきからずっといきり勃っている下腹部の分身からは、快感の涙がにじみ出してきたのです。
「どうだ、痛いか?」
男は、顔をしかめながらうなずいていましたが、下腹部の分身からは涙の粘液が、つつっ、と流れ落ちました。
 やがて、乳首をいたぶっているのとは別の鬼が、のこぎりを持ちだしてきました。
「残酷だなあ、あれで胴体を引いちゃうんだろう?」
太郎君は顔をしかめましたが、悪魔は、
「いいから、黙って見てろ。」
ため息をついています。石の台の上に裸で縛り付けられた状態で、乳首を痛めつけられて分身をいきり勃たせた男のなめらかな腹に、のこぎりが当てられました。
「あっ……。」
ゆっくりと動かされ始めたのこぎりを見て、太郎君は、思わず声を上げてしまいました。けれども、真っ赤な血がほとばしり出ることはなくて、
「ああっ……。」
という声と共に、さっきからいきり勃ったままの男の分身から、白濁した血が勢いよくほとばしり出たのです。
「すごい……。」
それは、男の首や顔のあたりまで飛び散って、腹の上にどろっと溜まりました。
 太郎君は、のこぎりで切られたのに、どうして血が出るかわりにあんなわいせつな液体が飛び散ったのか、不思議でたまりませんでした。
「どうして血が出なかったの?」
太郎君が尋ねますと、
「あれはゴムでできてんだから、血なんか出るわけないさ。」
悪魔はしぶしぶ答えてくれました。
「どういうこと?」
「地獄もこうやってサービスに努めないと、天国に客を取られちゃうもんだから、仕方がないんだ。」
悪魔はすっかりあきらめきった様子で、両手を持ち上げてみせました。
「サービス?」
でも、太郎君にはやっとことのこぎりのサービスは、まだ少しむずかしいようです。
「おまえもそのうちわかるようになるさ。……それとも、鬼に頼んで実地に経験してみるか?」
太郎君は、あんな痛いことはまっぴらだ、というように首を横に振りました。
「おまえも涙を流して喜ぶぜ、きっと……。ムチとかローソクも、オプションであるからな。」
でも、太郎君には、涙を流しながら喜ぶというのがどういうことかわかりません。
「痛いのに気持ちがいいなんて、どういうことなんだろう。」
ぶつぶつと言う太郎君に、悪魔は大笑いでした。