秘湯回想(四月馬鹿版) 2

火曜日, 4月 1, 2003

 部屋の窓からは、湖水の向こうが霧に煙っているのが見えて、なかなか風情のある宿だったが、どうやら、この宿の楽しみは湯にあるらしい。俺は、部屋に置かれている浴衣に着替えて、浴場を目指して廊下を歩き始めた。いったい、どのくらいの客が滞在しているのかわからないが、宿はひっそりと静まりかえっていた。けれども、その中に、静謐というのとは違う、なにか、淫靡な香りが漂っているような気がしたのは、俺の思い過ごしだったのだろうか。そうこうしているうちに、俺は、檜の香りのする脱衣所にたどり着いた。
「先客がいるのか。」
別に嫌ではなかったが、宿の静けさから、ひょっとして、自分以外に誰も泊まっていないのではないかと思っていたので、浴衣の入った脱衣かごを二つ見つけて、俺は意外な気持ちだった。くるくると浴衣を脱ぎ、ちょっと汗ばんだ下着を脱ぎ捨てた俺は、引き戸を開けて浴場に入っていった。そこは、御影石造りの、思ったよりも広々と、立派な浴場だった。
「いらっしゃいませ。」
そして、驚いたことに、はちまきをして、股引きを身につけた、三助と思しき若い男が、俺にていねいにあいさつをしてくれた。適当に掛かり湯をして、湯に浸かると、先客が2人いた。
『脱衣かごに入ってた浴衣は、この人達か。』
それなりの年輩の人と、それよりは若く見えるがそれでも俺よりは年上と思われる人が、それぞれゆったりと湯の中に身を沈めていた。年輩のほうの人は、俺のほうを、ちら、と見てから両手で顔を拭い、また心地よさそうに目を閉じた。それに対して、もう一人の男は、俺が湯につかろうとするのを、ねっとりした光を帯びた目つきで見つめていた。なぜ、その人に自分がそんなふうに見られるのかがわからなくて、俺は、ちょっと戸惑ったが、とりあえず、その人の向かいに体を沈めていった。
 この温泉の湯は、白く濁っていて、爽やかな匂いがしたが、その中にも独特の青臭さが潜んでいるような気がした。
『なんだろう……。』
俺は、ちょっと熱めの湯に全身をくつろがせながら、心のどこかで警戒している自分を感じていた。その湯は、じんわりと、俺の全身にしみ通っていくようで、その効果はすぐに現れ始めた。俺の体の芯が、とろみを増していくような感覚があって、けれども、俺の下腹部は、なんの刺激も受けていないのに、どんどん元気になり始めていた。
『ど、どうして……。』
何も淫らなことを考えたわけでもないのに、俺の男根は、すぐに、びんびんに勃ち上がってしまった。湯が白濁しているので、俺の向かい合わせの人から見える心配はないのがせめてもの救いだった。ただ、俺の狼狽している様子が、その人に気づかれたらしく、俺の顔を見て、にや、と笑うと、
「ここは初めてですか?」
と俺に声をかけてきた。
「え、ええ。」
その人は、湯の中に肩まで浸かったままで、ゆっくりと俺の隣まで移動してきた。そして、さっき俺を戸惑わせた目つきで、
「初めての人は、みんな、びっくりするんですよね、本当に勃っちゃうんだ、って。」
少し声を潜めて言った。
「勃つ、って?」
俺は、その人の言っていることが理解できなくて、首をひねってしまったが、そんな状態でも、俺の男根は萎える気配をみせなかった。
「おや、全然知らないんですか?」
そして、俺のその反応に、今度は、その人のほうが戸惑ってしまったようだった。
「いえ、何も。」
俺がそう言うと、その人は、
「この温泉のことを何も知らずに来たんですか?」
と、ちょっと疑わしそうに俺の顔をうかがった。なにやら誤解されているみたいなので、
「ええ、友達に、いいところだから、ぜひ行ってこい、と言われたもので……。」
俺は、できるだけ正直に言った。すると、その人は、
「そうなんですか、……確かに、ここはいいところですよね。」
口元に卑わいな影を浮かべながら、俺に片目をつむってみせた。
「は、はあ……。」
俺がなんて言えばいいのかわからずにいると、
「この温泉は、浸かるだけで元気になる湯ですから。もちろん、息子が、ですけどね。……あなたにも、効果てきめんだったみたいじゃないですか。」
そういって、俺に卑わいな笑いを投げかけた。湯が濁っていて、もちろん、俺の下腹部が痛いほど張り切っているのは見えないはずだが、俺は、まるで、彼に自分ががちがちに勃っているのを見られたような気がして、恥ずかしさにうつむいてしまった。
 そうすると、その人が、もう少し俺のほうににじり寄る気配があって、ほとんど俺の耳元で、
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいですよ。もちろん、私も元気になってしまってるんですから。」
その人のささやく声がした。そして、その人は、湯の中で俺の腕をつかんで手首を探し当てると、それをぐっと、自分の下腹部に誘導していった。その人の下腹部にはぎんぎんに堅くなってしまったものがあって、俺の掌は、その堅くなってしまったものを包み込む形で押し当てられた。
「あっ……。」
声を上げてしまったのは、俺のほうだった。俺が握っているものは、温泉の湯よりもさらに熱くそそり勃っていたのだ。
「あなたも元気になっているんでしょう?」
そして、避ける間もなく、俺のびんびんになってしまった男根も、その人の掌に握り締められてしまった。
「ううっ。」
俺は、また声を上げてしまった。
「ほう、なかなか立派なものをお持ちじゃないですか。」
その人は、そう言いながら、俺のものをゆっくりとしごき始めた。
「や、やめてください。」
俺は、突然のことに、どうすればいいのかわからなかった。そのくせ、俺も、自分の握り締めているその人の男根をゆっくりと扱いていたりした。
「やめていいんですか?こんなに元気になってしまっているのに。」
その人は、俺の耳元でそうささやきながら、ついでに俺の耳たぶを噛んだ。
「あっ……。」
思いがけない刺激に、俺は、自分のいきり勃った男根に、ひくん、と力を入れてしまった。「元気ですねえ。」
そういうその人のものも、俺の掌の中で、さっきから、ひくひくと脈打っていた。
「ほら、気持ちがいいでしょう?」
その人の手でもてあそばれて、俺の体は、ゆっくりと、けれども、確実に、快感の頂点に向かって漂い始めていた。
「駄、駄目です。このままじゃ……。」
そう言って、その人の手の動きを押しとどめようとしたけれども、その人は、一層激しく手を動かしたので、俺は、もう、我慢できなくて、そのまま激しく湯の中に精を噴き上げてしまった。
「あ、うっ……。」
その人は、俺のものが激しくけいれんする感覚を楽しんでいたふうだったが、
「いけない人だなあ、湯の中で射精するなんて……。」
やがて、俺をとがめるようにそう言った。俺の精は、ふわっと湯の表面に浮いてきて、しばらく形を保って湯の中を漂っていたが、やがて、白濁した温泉の湯になじんで区別が付かなくなってしまった。そうやって、しばらくの間、俺は、あまりの快感に、荒い息をつきながら、その人の肩にもたれていた。
「そんなに気持ちがよかったんですか?」
その人にそう言われて、俺は、自分のやったことに改めて恥ずかしくなり、その人から顔をそむけた。しかも、あれだけ激しく噴き上げたというのに、俺の下腹部から勃ち上がったものはおさまる気配をみせず、相変わらずその人になぶられ続けていた。
 すると、その時、湯の中に浸かっているもう一人の人が、俺の様子をじっと見ていたらしいことに気がついた。きっと、俺がどういう状況になって、隣に浸かった人からどんなことをされたのか、容易にその人には想像できたのだろう。けれども、その人は特に表情を変えずに、一度だけ両手で顔を、ぶるん、と拭うと、ざばっ、と湯から立ち上がり、洗い場のほうへ湯の中を歩いて行った。何気なくその人の下腹部を見た俺は、そこに、びんびんになったふてぶてしい男根を見つけて驚いてしまった。その人は、それを隠すでもなく、平気な顔で洗い場に上がると、三助に、なにやら声をかけた。三助は、
「承知いたしました。ご案内いたします。」
とその人をサウナのように見える部屋へ案内して行った。
「ほら、あの人は、三助にくわえさせるつもりなんだ。」
その人は、待ちきれないのか、部屋に入るやいなや、三助の両肩を押して、自分のものをくわえさせようとしたが、三助が、
「あ、そんなご無体な……。」
と、はかない抵抗をしようとしている声が、扉が閉まる前に聞こえてきた。
「あの三助は、なんでも言うことを聞くから、自分がやってるのを見せびらかすのが好きなら、この洗い場でだってくわえさせることができるんだぜ。」
相変わらず俺のものをゆっりと扱きながら、その人はまた俺の耳元でささやいた。
「もちろん、口だけじゃなくて、ちょっと祝儀をやれば尻の穴も自由にできるんだ。」
さっきから驚くことの連続だったが、その人にそう言われて、俺は、さすがに、
「えっ?」
次に言うべき言葉が思いつかなかった。一見、清楚に見えるこの宿は、実はこんな淫乱な仕掛けに満ちあふれていたのだ。
「俺は、もう、あいつには飽きてしまったからそういう気にはならないけどな。」
その人の巧みな手さばきで、俺の下腹部には、また、じんわりと快感がこみ上げてきていた。
「まだこんなに元気じゃないですか……。君さえよければ、私がくわえてあげるよ。」
その人の目は怪しく輝いていたが、さすがにその申し出を受けるのはためらわれて、
「い、いえ、さすがにここでは……。」
俺は、残っている理性をふりしぼって、その人の手を自分のものから払いのけた。もうちょっと扱かれたら、俺は、その人の言うとおりのことをなんでもしてしまっただろう。俺のものから手を離したその人は、ねっとりした含み笑いをすると、
「じゃ、夜が更けたら、ぜひ、俺の部屋に忍んできてください。」
と言って湯から上がっていった。もちろん、その人の下腹部からも、赤黒く充血した男根が雄々しく勃ち上がっていた。