秘湯回想(四月馬鹿版) 6

火曜日, 4月 1, 2003

やがて、三助のことも、あの宿のことも、俺の記憶からはだんだん遠のいていって、忘却の淵に沈み込んで行くかのようだった。俺は、相変わらず、街で出会う男達と安宿で肌を重ねたり、自分の部屋に連れてきてねっとりした時間に耽ったりしていた。ただ、あの日から、俺が押し倒したくなる男は、決まって、どこかに例の三助の面影を宿しているような気がして、それに気づくと、その都度、なぜか、浅ましい姿の三助を思い描いてしまう自分がいた。俺が組み敷いたやつが、俺の男根を受けて快感のうめき声を上げたりすると、その姿に三助の面影を重ねて、
「ほら、これがいいんだろ?こうされてうれしいんだろ?」
と、そいつを苛むかのように激しくその尻を犯してしまうこともあった。
そんなある日、俺は、某所で三助と見まごうかのような容貌の、がっしりした野郎と知り合った。
「俺の部屋に来るか?」
俺が、そいつを誘うと、そいつは、ちょっと恥ずかしげに視線を伏せて、こっくりうなずいた。
「ここにはよく来るのか?」
俺が、差し障りのなさそうなことを言って会話に誘っても、そいつは黙ってうなずいたり、かぶりを振ったりするだけで、何もしゃべろうとしなかった。俺は、そいつが恥ずかしがっているのだと思って、それ以上話しかけず自分の部屋に連れて帰った。
俺の部屋に入って、俺が入り口の扉の鍵をとざすと、そいつは、いきなり俺の両肩に手をかけて、俺の唇に自分の唇を重ねてきた。
「お、おい、おい、いきなりか?」
俺はそう言ってかわそうとしたが、俺の下腹部に押しつけられているそいつの下腹部には、はっきりと堅くなった男根が息づいているのが感じられて、それによって俺の中の欲望も燃えさかり始めた。
「すごいな。」
そいつの男根は、俺の手に余るほどの太さと長さで、俺は圧倒される思いだった。そんな俺の躊躇を感じたのか、そいつは、俺の両肩においた手に、ぐい、っと力を込めて、俺を畳の上に押し倒そうとした。
「えっ……?」
てっきり俺がそいつを押し倒さなければならないと思っていたので、意外な展開に俺は困惑してしまった。俺がどうすればいいのかわからずにいる間に、俺は、易々と畳の上に押し倒されて、次々と服をはぎ取られて、瞬く間に裸にされてしまった。露わになった俺の股間にそいつは覆い被さると、まだ平常のままの男根をねっとりとくわえて、絶妙な舌の蠢きでそれを刺激し始めた。
「あ、あっ……。」
その脳天を貫くような刺激に、俺の男根はあっという間にいきり勃ち、そいつののどの奥にぬめり込んでいた。そいつの刺激は、俺の男根だけではなく、袋の部分、男根の付け根から、尻の穴にまで及んだ。そいつの舌が触れたところからは、快感の電流が俺の全身に流れ出し、俺の全身からは力が抜けて、いつの間にかそいつのなすがままだった。気がつくと、俺は、両足を高く持ち上げられた状態で、ケツの穴に、そいつのいきり立った男根をあてがわれて、まさに全身をそれで貫かれようとしていた。
「ま、待ってくれ……。」
これまでに経験したことのない領域を侵されようとして、俺は恐怖感からそいつの身体を押しのけようとした。すると、俺がそこに見たのは、さっきまでの野郎ではなく、まぎれもなく例の温泉宿の主人が、三助を苛んできた時の牛の化身の顔だった。
「お、おまえはっ!」
きっともう俺を征服できるものと思って油断があったのか、俺が、驚いて、力を振り絞って主人の身体を押しのけると、主人の身体はよろめいて、後ろにあった棚に当たった。すると、そのはずみで、すっかり忘れてしまっていた、例のお札がひらひらと落ちてきて、その主人の股間からいきり勃っている男根にまきつくと、その根本をきりきりと締め付け始めた。
「おおうっ……。」
主人はあまりの疼痛に顔をしかめると、男根に巻き付いたお札をはぎとろうとした。しかし、そのお札はますますきつく男根を締め付けるだけで、主人はそのお札を男根からはぎとることができないまま、股間を押さえてうずくまってしまった。
「あと少しだったのに……。」
そして、主人は、恐ろしげな目つきで俺をにらみつけると、股間を押さえたまま部屋の外に飛び出していった。俺は呆然とそれを見送りながら、改めて三助の、
「お困りの時に、きっと役に立ちます。どうか、大切にお持ちください。」
という声を鮮明に思い出していた。