「出張なんだか、遊びなんだかわからないよな、おまえの場合は。」
職場の同僚は、活き活きと出張する俺の様子を見て、よくそう言うが、その言葉に俺はいつも苦笑してしまう。たぶん、そいつが思っている以上に、その言葉は俺の実態を言い当ててるのだ。
「そんなことないさ、俺は仕事に生きてるんだからな。」
そう言いながらも、俺自身、その台詞が空々しく響いていることを認めざるを得ない。実は、今回の出張の一番の目的は、ある野郎に会うことで、もちろん仕事先の相手ではなく、某掲示板を通して知り合った、航空会社の地上職の奴だった。メールだけでなく、何度かビデオチャットでも話したが、カメラを通して見る限りなかなかうまそうな身体だった。
「ほとんど体育会系みたいな職場っすから。」
奴は、カメラの前で、自分の乳首をいじりながら、股間でびんびんになったものを責め立てて見せた。
「スケベな奴だな、おまえは。」
おれがそう言うと、
「そうっす、どスケベっす。」
奴は、卑わいな声を上げながらそう言った。
「乳首が感じるんなら、ケツも感じるんじゃないのか?」
俺がそう追求すると、奴は、
「乳首も、ケツも、モロカンっすよ。」
今度は大股開きになって、自分の尻の穴に無骨な指をあてがってみせた。
「自分でやっても感じるのか?」
俺が揶揄するようにそう言うと、奴は、
「ううっ、兄貴に責めて欲しいっす。」
そう言いながら、すでに右手の指を二本、自分の尻の穴に突っ込んで、左手では相変わらずびんびんのものをしごいて見せていた。
「もうぬるぬるじゃないか。」
ローションをつけるまでもなく、奴のびんびんのものは、ぐじゅぐじゅと卑わいな音を立てている。
「ああっ、いいっす、気持ちいいっす。」
そうやって、ひとしきりしごき上げた後、奴は、
「ああっ、もうだめっす、いきそうっす……。」
情けない声を上げて、
「もういっていいっすか、兄貴?」
俺が、
「おう、いけよ、ぶっ放して見せろ。」
そう言うのを待ちかねて、自分の腹に盛大に樹液をぶちまけたのだった。
「すげー、派手に飛んだじゃないか。」
ティッシュで後始末をする奴に俺が声をかけると、
「兄貴に責められて、感じたっすよ。」
奴は、恥ずかしそうにしながら、どろどろになったティッシュを丸めた。
「そう言えば、来週の月曜日はそっちに出張だったな。」
以前、奴が働いている空港の名前を教えてもらったことがあったのを、俺は思い出した。
「え?」
すると、今いったばかりだというのに、奴の眼がいきなり淫乱な輝きを取り戻した。
「一泊二日の予定で。」
俺がそう言うと、奴は、
「俺、月曜は早番っすから、夕方には身体が空くっす。」
物欲しげな目つきで俺を見た。
「じゃ、晩飯でもいっしょに食うか?」
俺が素っ気なくそう言うと、奴は、
「うっす。……晩飯の後は、俺の身体で遊んで欲しいっす。」
欲望をむき出しにした台詞を俺に投げた。
「そうだな、ひまだったらな。」
俺の気のないふうの返事も奴は気にすることなく、
「ぜひぜひ、俺のことをがんがん責めて欲しいっす。」
そう言って、また元気を取り戻しつつある股間のものをしごいて見せたのだ。
「どんな責めでも泣きを入れたりしないっすから、俺。」
さすがに、それを全面的に信用するほど俺も初心じゃなかったが、少しくらい言ってることと違ってても、出張先なら我慢できなくはないと思ってしまうのは、俺がすけべだということなのかもしれない。
だから、実際に待ち合わせ場所でそいつにあった時に、俺は、期待以上の身体の持ち主を見て、内心舌なめずりをする思いだった。あいさつもそこそこに行った居酒屋で、
「俺の会社の人、よく来るんっすよ、この店。」
奴はそう言った。
「誰かに会っちゃ、まずいんじゃないのか?」
俺が心配になってそう言うと、奴は、
「全然平気っすよ、誰に会ったって。俺が、男好きなのは、周りの連中はみんな知ってるっすから。」
あっけらかんとそう言い放った。
「それにしてもすごい荷物だな。」
奴は、フィットネスに出かけるような荷物を抱えていた。
「チャットをしてる時に、会社のつなぎの服に興味がありそうだったんで、持ってきたっすよ、今日仕事で着てたのを。喜んでくれるかと思って。」
なかなかいい心がけだ。
「と言うことは、ジーンズの下は?」
つなぎの下にいつも着けてるというケツ割れだったりするのか?俺のなめるような視線に気づいた奴は、ちょっとほおを赤らめながら、
「そうっすよ、ケツ割れっす。」
うつむき加減でそう言った。
「なんだ、恥ずかしいのか?」
ビデオチャットではあんなに派手なことをして見せているくせに、ケツ割れぐらいで恥ずかしがるのがかわいかった。
「淫乱モードに入っちゃうと全然平気なんっすけど、こういう時にはちょっと恥ずかしいっす。」
奴がそう言うので、俺が、
「恥ずかしいくせに、ケツ割れをはいてるのか?」
と責めると、
「どこで誰に責められるかわからないっすから。」
奴は、またほおを赤らめながらそう言った。
「いつでも、ケツにぶち込んでもらえるようにケツ割れはいてるってわけか。」
俺の言葉に、奴は、こっくりとうなずいて、
「時々、俺が隠してないのをいいことに、仕事場の風呂で俺と二人っきりになると、俺に抜かせたりする先輩もいるっすよ。男が好きって訳じゃないけど、俺に抜かせりゃ安上がりで気持ちよくなれるから。」
奴は驚くようなことを言う。
「立派なセクハラだな、それじゃ。」
俺が苦笑していると、
「俺も嫌いじゃないから、セクハラにはならないっすよね。先輩に半勃ちのものを見せつけられて、『おい』って言われると、素直にくわえちまうっす。」
へえ、それはそれで、すごい職場だなあ、と俺は思うが、そんなことを言いながら、奴ははもう発情しきった目をして、自分の股間にあてがった手で、元気になってしまったものの位置を直しているようだった。
「もう勃ってるんだろう?」
俺は、靴を脱いで、奴の股の間に伸ばした自分の足先を割り込ませた。
「へへ……、もう、びんびんっすよ。」
奴は、股を広げて、俺が足先でいたずらしやすいようにした。
その時、俺は、聞き覚えのある声を聞いた。
「いろいろな経験をするのはいいことだと思うぜ。」
思わず俺がその声のした方を振り返ると、どこかで見覚えのある男が、もう一人の男とビアジョッキを傾けて、なにやら話し込んでいるようだ。俺につられてそっちを見た奴の眼に、
「あ、まずい、矢倉さんだ。」
焦りの色が浮かんだ。
「どうした?会社の人か?」
さっきまでの元気な声とは裏腹に、奴は、声を潜めるように、
「そうっす、パイロットっす。」
俺に言った。奴のその言葉を聞いて、俺は、自分の背後から響いてくる声が、今日の機内アナウンスの声と同じことに気がついた。俺は、搭乗の時に見た逞しい腕をまざまざと思い出していた。それにしても、急に大人しくなってしまった奴の態度がおかしくて、
「さっきは誰に会っても平気だと言ってたじゃないか。」
俺がそう冷やかすと、
「そうなんっすけど、矢倉さんは、ちょっと……。」
奴は意味深なことを言った。
「なんだか怪しいな。」
どうやら面白い話が聞けそうなので、俺は、さっきから奴の股間のごりごりしたものにあてがっていた足先を微妙に動かして、先端の部分により強い刺激を与えてやった。
「あ、そんなことされると、俺、やばいっすよ。」
奴の顔が、快感に歪むのを楽しみながら、俺は奴を尋問した。
「その矢倉さんとできてるんだろ?」
俺の足に股間を刺激されて、奴の目は、すっかり発情してしまっている。
「そ、そうっす……。時々、矢倉さんがステイするホテルに呼び出されて、おもちゃにされてるっす。」
どんなふうにおもちゃにされているのか興味があったが、それは後で、ベッドの中でゆっくり白状させてやればいい。
「今日は、お呼びがかからなかったのか?」
俺がそう尋ねると、
「俺なんか、矢倉さんにとっちゃ、単なるおもちゃっすよ。……それに。」
奴は、『矢倉さん』の声のした方の様子をうかがうようにしてから、
「今日は、矢倉さん、別の目的があるみたいだし。」
そう言った。俺の怪訝そうな顔を見て、奴は、
「新人の副操縦士を口説いてるみたいっすよ、今日は。」
そう解説した。
「矢倉さんも有名っすから。いっしょに仕事するパイロットに手を出してる、って。矢倉さんにも、一度、あいつは酒を飲ませて落とした、とか、こいつは無理矢理押し倒した、とか、聞いたことあるっすよ。」
俺は、操縦室の中であの逞しい腕の機長が、なめるような目つきで副操縦士をながめているところを想像して、妙に興奮してしまった。
「今度紹介してくれよ。」
俺がスケベ心丸出しでそう言うと、奴は嫌な顔もせずに、
「いいっすよ。」
と、うなずいた。
「でも、俺とも、また会ってくれるっすよね……?」
最後の言葉は、ちょっとうつむき加減に陽焼けしたほおを赤らめた奴の口から、ぽつり、と漏れたが、俺の心に、ずきん、と突き刺さるものがあった。
「もちろんさ、でも、まずは今夜だな。」
俺は、奴の股間から足を戻すと、テーブルの上の伝票をつかんで立ち上がった。