太郎君は口からあふれた分をティッシュで拭くと、
「出ちゃうところまで人間と同じなんだね。」
と感心したように言いました。
「あたりまえだろ。」
悪魔はちょっと照れくさそうで、後始末もそこそこに、大あわてで服を着てしまいました。
「さっさと願い事を言えよ。大サービスで代償なしにかなえてやるから。」
太郎君ののどの感触がまんざらでもなかったくせに、悪魔はそんなふうにぶつぶつ文句を言うのです。
「もう帰っちゃうの?」
太郎君は、悪魔がすっかり気に入ったようです。大好きなグラビアの彼にそっくりだし、それに何よりこんな逞しい体なのですから、無理もありません。
「ああ、おまえなんかの相手をしてたら、ろくなことがないからな。」
そう言われると、太郎君は、ますます悪魔と別れたくなくなります。
時間をかせぐつもりで、太郎君はいろいろ悪魔に質問しました。
「帰るって、どこへ帰るの?」
「そりゃ、俺のねぐらは、一応、地獄にあるからな。」
あたりまえだろ、と悪魔が言うのを聞いて、太郎君は突然いいことを思いつきました。
「じゃあ、僕に地獄を案内してよ。」
太郎君がそう言うと、とたんに悪魔は困ったような顔つきになりました。
「そいつは困るよ。……生身の人間なんか連れ込んだことがばれたら、へたすると天国へ追放されるんだぜ。」
悪魔が困ると、太郎君はますます意地になって、
「地獄へ連れて行ってくれなきゃ、絶対に帰さないからね。……だって、出てきた以上は、僕の願い事をきいてくれるんだろう?」
これで悪魔を帰さずにすむ、と太郎君は大喜びです。
けれども、世の中、そうそう思い通りにはいかないものです。
「仕方ねえな……。」
考えた末に、悪魔が、
「かわいいおまえの言うことだし、地獄を案内してやるか……。どうも、俺、おまえに惚れちまったみたいだな。」
と言いだしたのです。しまった、と太郎君は思いました。なぜって、いくら好奇心の強い太郎君でも、地獄へ落とされるのなんかはあんまりうれしくないからです。それでも、自分から言い出した手前、仕方なく、
「うん。」
とうなずきましたが、
「帰ってこられるんだろう?」
ちょっぴり不安そうに付け足しました。
「だいじょうぶ。おまえさえ、へまをやらなけりゃ、必ず連れて帰ってやるよ。」
悪魔は大まじめでうなずきました。
それでもやっぱり不安でしたから、太郎君は、
「へまって、何?」
と尋ねてみました。
「おまえ、わりとかわいいから、きっと地獄の奴らに誘惑されるぜ。……だけど、絶対、奴らの誘いにのっちゃ駄目なんだ。」
「誘い、って?」
だいたい見当はついていたのですが、太郎君がぶりっこをしてそう言うと、
「こういうことさ。」
と、悪魔の舌がねっとりと太郎君の舌にからみついてきました。悪魔にキスをされると体中がしびれるほど強い感触なのに、そのくせ下半身だけは元気に勃ち上がってきてしまうのです。
「地獄の奴らは、みんなテクニシャンだからな。これぐらいでこんなふうに勃ててちゃ危ないぞ。」
悪魔は、すっかり堅くなってしまった太郎君のものを、ズボンの上からつかんで冷やかしました。
太郎君が悪魔のキスの余韻でボーッとしている間に、悪魔は尻尾をポケットにねじ込んで、地獄めぐりに出発する準備を整えてしまったようです。
「おい、いつまでもズボンの前を突っ張らせてないで、地獄行きのしたくをしろよ。」
悪魔に促されて、太郎君はやっと我に返りましたが、本当に地獄へ行くのかと思うと、今度は胸がドキドキし始めました。
「地獄って、恐ろしいところなんでしょう?」
できることなら地獄になんか行きたくないので、太郎君はぐずぐずしています。
「早くしろ、俺は気が短いんだからな。」
人間の姿をしていても、さすがに悪魔がにらむと迫力があります。太郎君はしぶしぶ地獄めぐりに出かけるために服を着替え始めました。
「じゃあ、行くぞ。」
太郎君の準備が整ったのを見てそう言うと、悪魔は太郎君の部屋のドアを開けました。そうすると、本当はそこに廊下が続いているはずなのに、なんと地獄の風景が広がっているのです。
「僕の部屋と地獄がつながっていたなんて、全然知らなかったなあ。」
太郎君は感心しながら、悪魔に連れられて地獄めぐりに出発したのです。