ごろごろと岩のころがっている荒れ地をしばらく歩くと、大きな川がごうごうと音をたてて流れていました。
「知ってるだろ?こいつがうわさの三途の川さ。……本当は地獄の下水なんだが、人間なんて、そんなこと知っちゃいないからない。」
そういわれてみれば、何か食べかすらしいものが流れていきます。
「ふーん、それでこんなにひどい匂いがするのか。」
あたりは鼻をつまみたくなるような匂いがたちこめていました。
「でも、悪魔って西洋のものだろ?それなのにどうして日本の地獄に住んでるの?」
三途の川なんていうのは日本名のはずですから、太郎君は変に思ったのです。
「百年ぐらい前から、こっちへ出張してきてるんだ。地獄も国際化が進んでるからな。」
「ふーん。」
そんなことを二人で話していると、誰かの声がしました。
「やあ、今日はまたかわいい子を連れてるじゃないか。」
太郎君が驚いて声の方を見ると、粗末な川船が岸に着いていました。ところが、その船の船頭は筋骨逞しい男の人で、しかも赤い褌だけの裸なのです。
「あの人は?」
太郎君が悪魔にそっと尋ねると、悪魔は、
「あいつが三途の川の渡しさ。」
と教えてくれました。
悪魔はつかつかとその船頭の方へ歩いていきました。
「ちょっとへまをやっちゃって、こいつを地獄めぐりに連れてくる羽目になっちまったんだ。本当についてねえよ。」
悪魔は肩をすくめてみせましたが、
「おまえが嫌なら、俺が連れていってやるぜ。こんなかわいい子なら天国までだって行ってやるさ。」
船頭は悪魔の胸を突っつきながら太郎君に笑いかけました。
「こっちへ来いよ、坊や。」
太郎君は船頭に呼ばれて、ふらふらと船のところまで歩いていきました。
「俺のことをどう思う、坊や。」
船頭は逞しい筋肉を見せびらかしながら太郎君に迫ってきました。けれども、太郎君が逞しい筋肉よりももっと気になったのは、猛々しく盛り上がった赤褌だったのです。盛り上がりの太さや長さだけでなく、先のところのくびれまでがはっきりと浮き立って見えているので、太郎君は思わず生つばをごくりと飲み込みました。
そうすると、太郎君の熱心な視線に気づいたのか、船頭は赤褌をずらして勃ちきったものをむき出しにしました。赤黒くてらてら光った先の部分、血管の巻きついた握りの部分、太郎君の目はその逞しさに釘付けになってしまいました。
「……。」
ピクンピクンと脈打っているそのリズムに合わせて、太郎君の心臓もドクンドクンと鼓動しています。悪魔は熱心に見つめている太郎君の様子を笑いながら見ていましたが、太郎君が手を伸ばしてそれに触ろうとすると、がしっと太郎君の手をわしづかみにしました。
「誘惑にのるな、ってあれほど言ったろう?」
太郎君は、悪魔に言われていたことを思い出してはっとしましたが、それでも残念でなりません。
「ちょっとぐらい触ったって……。」
いかにも未練そうにぶつぶつ文句を言いましたが、悪魔はがんとして許してくれませんでした。
二人のやりとりを見ていた船頭は、
「ちぇ、いいところで邪魔しやがって……。」
と苦笑しながら、いきり勃っているものを赤褌の中に苦労して押し込みました。
「どうせ、おまえはもう、いただいちゃってるんだろうけどな。」
船頭の言うことは図星でしたので、二人は黙って船頭に促されるまま船に乗りました。
「おまえもいい加減、褌なんかやめて、もっとスマートな服装にすればいいのに……。」
悪魔は船頭に冷やかされたので、そんな皮肉を言いました。
「いいじゃないか、この坊やだって、俺の褌姿が気に入ってるみたいだぞ。」
逞しい尻に赤い褌が食い込んでいる様子を見ているだけで、太郎君はズボンの前が恥ずかしい状態になってしまっています。
「この船だって、オンボロだし、第一、時代遅れだぜ。」
けれども船頭は、気にするふうでもなく、対岸まで二人を渡すと、太郎君にウインクをしてから、さっさとどこかへ行ってしまいました。
太郎君がその船を見送っていると、悪魔は、
「あれほど言っておいただろう?」
と、ちょっととがめるような調子で言いました。
「体に触ったらもうそれで終わりだぞ。おまえなんか、一発でいい気持ちにされて、永遠にもてあそばれることになるんだからな。」
「そんなこと言ったって……。」
あんなに逞しいものを今まで見たこともなかった太郎君ですから、誘惑されてしまうのは仕方がないのです。
「気をつけないと、俺じゃどうにもならないことだってあるんだからな。」
悪魔の言うことももっともですから、太郎君は黙ってうなずきました。
「シャバへ帰りたいんなら、絶対に地獄の奴らの誘惑にのるなよ。」
悪魔は、もう一度きつい調子でそう言うと、ところどころから硫黄の蒸気が噴き出している、ゴツゴツした道をすたすたと歩き始めました。