地獄という所も、自分で思っていたのとはだいぶ違うみたいだなあ、と太郎君は思っていました。
「まだ歩くの?」
針の山のふもとをぐるっと回り道しているので、さすがの太郎君も少し疲れてしまったようです。
「もう着いたぜ、ほら。」
悪魔に指さされた方を見て、とたんに太郎君の目の色が変わりました。
「うわ、逞しい人……。」
そんなげんきんな太郎君の様子を見て、悪魔は苦笑してしまいました。太郎君が見ている方には大きい鏡があって、ボディービルダーのように筋肉の発達した男の人が、その前でポーズをとっていました。彼は、鏡の中の自分を見ながら、力こぶを作ってみたり、胸の筋肉を盛り上げてみたり、腹筋の段を浮き立たせてみたりしています。そして、よだれをたらさんばかりに見つめている太郎君に、鏡の中からウインクしてみせました。
「あいつはナルシストなんだ。」
けれども、太郎君には悪魔の言葉も耳に入らないようです。
自分の体を鏡に映して見ていた彼は、筋肉を緊張させるのにも飽きたのか、そのかわりに、下腹部で緊張し始めているものを両手に包み込んでもみほぐしました。
「大きいなあ……。」
太郎君は、ふらふらと引き寄せられるように近づいていきます。
「駄目、駄目……。」
それを見て悪魔は、大急ぎで太郎君を引き止めました。
「どうして……?」
太郎君は大いに不満そうな顔をしました。
「だから、あいつはナルシストだって言っただろ?」
太郎君は血管の浮き立った太いものに未練があるようです。
「おまえなんか相手にしてくれないぜ。……あいつが好きなのは鏡だけさ。あいつは鏡の前から離れられないんだ。」
悪魔は太郎君の腕をつかむと、どんどんそこを離れていきました。
しばらくの間、太郎君はぶつぶつ言っていましたが、ごつごつとした山道が開けたところにやってくると、とたんに機嫌が直りました。その広場には、四、五人ほどの裸の男が壁に向かって背中をみせていたのです。太郎君の現金さに、悪魔は苦笑いせざるを得ませんでした。
「あの人達は……?」
裸の尻をくねらせて壁に向かっている男達に、太郎君は大いに興味をそそられたようです。
「あいつらは……。」
悪魔が説明しかけると、一番端っこにいた男が壁にすがりすいて、
「いい……。いくうっ。」
と声を上げました。それからその男は、全身をけいれんさせて何かに耐えているようです。一人が声を上げると、他の男達も次々に腰をわいせつに悶えさせながら、
「いくっ……。」
と声を上げました。
「壁の向こう側へ行ってみりゃ、どういうことなのかわかるさ。」
悪魔に促されて、太郎君は壁の反対側へ行ってみました。
壁の反対側の光景を見て、太郎君はしばらくの間、その場に立ちつくしてしまいました。
「……。」
壁には、ちょうどいい高さに穴が開いていて、向こう側に立った男達の股間でそそり勃っているものが、その穴からにょっきり突き出ているのです。そして、その肉棒の前には、一人ずつ男がしゃがんでいて、めいめいの目の前のチン列物を、しゃぶったり、吸ったりしていました。それで、さっきの男達は、あんなに腰を卑わいに動かして悶えていたのです。
「あ……。」
一番手前の男が、唾液でてらてらした肉棒をちょっと口から離した隙に、びゅっびゅっ、と白いゼリーが飛び出してしまいました。男はゼリーを顔に浴びて、あわてて脈動しているものをくわえました。そして、残りは一滴ももらさずに飲み干してしまったのです。
「あの壁は一度ものを入れると、抜けない仕組みになっているのさ。だから、向こう側の奴らは、いってもいっても、吸われて堅くされ、柔らかくなる暇もないってわけさ。」
悪魔は面白そうに説明してくれました。
太郎君が見ていると、しゃがんでいる男達の後ろには、別の男達が列を作って待っていて、飲み終わった男は後ろの男と交替しているようでした。そして、壁から突き出した肉蛇口から白いゼリーを飲み干した男は、後ろにある溜池のほうへ歩いて行きます。どろどろした池のほとりに立った男は、勃ちっっぱなしのものを自分の手で激しくこねまわして、池の中に、びゅっびゅっ、と飛ばすのです。
「どうしてあんなことするの?」
太郎君は不思議でたまりません。
「飲んだ分だけ出さないと体かパンクしちゃうと思ってるからさ。」
「変なの……。でも、それなら、飲むのをよせばいいのに……。」
「そこがあいつらの馬鹿なところさ。」
悪魔はおかしそうに笑いました。壁の向こうからは、相変わらず快感の悲鳴が聞こえてきます。そして、そのたびごとに、白いゼリーの溜池の水位は、少しずつ上がってゆくことになるのです。