僕がどうにかそのコーヒーを飲んでしまった頃、
「さあ、それじゃそろそろ料理にかかることにするか……。」
なんて言って、桜井は立ち上がった。そして、何を思ったのか押入をごそごそやってロープを取り出してくると、あっけにとられている僕の両手と両足を縛ってしまったのだ。
「な、何するんだよ。」
僕が抗議しているのには目もくれず、桜井は落ち着き払ってエプロンなんかをすると、床にころがった僕をベッドの上に抱き上げた。
「重いなあ、栗坂。肉付きのいいほうが食べがいがあるには違いないけど……。」
「え……え?!」
あわててしまった僕を、桜井は笑って見下ろしながら、
「心配するなよ、本当にとって食ったりしないさ。」
なんて言うと、鼻歌なんか歌いながら流し台のところへ行った。
「お、おい……。まさか本気じゃ……。」
ベッドのところにもどって来た桜井は、手によく切れそうなステンレスの包丁を持っていたのだ。
そうしたら、桜井はまたクスクス笑って、
「栗坂、おまえ『注文の多い料理店』っていう童話を読んだことあるか?宮沢賢治の書いたやつだけど……。」
なんて言って、僕の目の前でその包丁を振り回すのだ。
「じゃ、じゃあ、フルコースって言うのは……。」
つまり僕の体は、フルコースで桜井にもてあそばれるっていうことらしい。なんて、今頃気づいても大幅に遅すぎるわけで、僕が何とかしようとじたばた暴れ始めた頃には、桜井の右手の包丁は、僕のTシャツを首のところから切り裂き始めていた。
「暴れないほうがいいぞ。本当に切っちゃっても、俺は知らないからな。」
ちょうど皮をはぐようにして、上半身を裸にされてしまうと、僕は今度はベッドの背もたれを使って大の字に固定されてしまった。でも考えてみたら僕もあんまり真剣に抵抗してたわけじゃないような気もするし、実に恐ろしいことだけれども、案外こういうことって僕の願望だったりするのかもしれない。なんて思ったら抵抗できなくなってしまった。
「さて、いよいよだな……。」
桜井は、ズボンだけは一応、ちゃんと脱がせてくれたんだけれども、ブリーフは包丁で切り裂かないと気が済まないみたいだった。
刃物の冷たい感触が僕の腹をゆっくり動いて、ブリーフのゴムがブツッと切れる音がした。
「うん、思ってた通りおいしそうだなあ……。」
桜井はうれしそうに、僕のまだ大人しくしているものを包丁でちょっと突っついた。
「あ……。」
せっかく気を紛らせて、大きくならないようにしていたのに、桜井がそんな悪戯をするもんだから、僕の体は自分の意志に反して、桜井のうれしがるような形になってしまった。
「本当なら、ナプキンか何かが必要なんだけど、ま、いいや。」
桜井はエプロンをはずして椅子を引っぱってくると僕の胸の横に腰かけて舌なめずりをした。
「本当にやるのか……?」
「栗坂だってやられたがってるじゃないか、ほら……。」
ほら、というのは、すっかり元気になってしまった僕のものを桜井が指ではじいたことなんだけど、そんなことをされて僕は、いったいどんな顔をしたらいいのかわからなかった。
桜井は食器戸棚に使っているらしいところからナイフとフォークを取り出してきて、僕の胸の上に並べて置いた。そのひんやりした感触は、本当なら下腹部の突き出したものが大人しくなるべき感触なのに、どうしたわけか、そこはますます充血していくのが自分でもわかって、僕は顔が赤くなってしまった。
「まず、オードブルだな。……そうだ、あれがいいかな。」
桜井は、うん、あれがいい、なんてうなずくと、冷蔵庫の中からプリンスメロンだかなんだかを持ち出した。そして、僕の胸の上でそのへたの一方を切り落とすと、中身をざっとくりぬいてから、その穴に僕のをずぶっと……。
「さしずめ、メロン・ド・ハムってとこかな。どっちかって言うと、メロン・ド・ウィンナーだけど……。」
桜井はそんな冗談を言って、自分だけでクスクス笑って喜ぶと、
「ナイフじゃちょっと無理みたいだなあ。」
なんて、僕に突き刺したまま、包丁でメロンの皮をむき始めたのだ。
皮をむくためにメロンが回されると、僕は冷たいぐじゃぐじゃした感触を改めて味わわされることになってしまった。メロンの種だかなんだかが、先の敏感なところに引っかかるような感じで、僕はもうそれだけで変になってしまいそうだった。
「あんまり回すなよ、すごくくすぐったいから……。」
「栗坂も淫乱だなあ……。」
桜井はさもあきれたふうな表情をするのだけど、僕が淫乱なら、こんなことをして喜んでいる桜井自身はいったい何だと思っているのだろう。そのうちにメロンの皮をすっかりむいてしまうと、桜井は、僕の根元を支えながら、メロンにかぶりつき始めた。
「あ……。」
冷たさにやっと慣れた先っぽのところに、桜井の歯が当たって、ついでに、なま暖かい舌がずるっとなめていったりしたので、僕は思わず声を上げてしまった。声を出してから、しまった、と思ったけど、案の定桜井はうれしそうにニヤニヤしていた。そして、
「もっとちゃんと種を取っておくべきだったなあ……。」
なんて種を吐き出しながらも、結構おいしそうにメロンを食べて、ついでに僕のにも舌やら歯なんかで悪戯をしていった。
僕は自分が声を出したりしたのが恥ずかしくて、
「よくそんな汚いのを、平気で食べられるなあ。」
と、せいいっぱいの皮肉を込めて言ったのだけど、
「そう言う栗坂こそ、よくそんなに悶えられるなあ。」
なんて逆にやりこめられてしまった。でも、桜井の歯がいきなり自分のに当たったりするから驚いてそれで声を出したみたいなところもあるのに、悶えるなんて言うのはちょっと言いすぎだと思うけれど、本当のことを言うと、最後に桜井がその『ウィンナー』に付いたメロンの果汁を拭き取るために、桜井の口の中へ吸い込んだ時の声は、純粋に快感のためだったのだ。
「うん、このオードブルはまずまずだったなあ。」
そんなことを言われると、本当に自分が料理をされているような気になってしまって、この次はどんなふうに料理されるんだろう、なんて思って変に期待したりして、僕は複雑な心境だった。
桜井は、もう完全に僕のことを皿の上に乗った料理か何かだと思っているらしかった。
「次はやっぱりスープだよな。」
ポタージュがいいな、なんてつぶやきながら桜井は、オードブルのせいで元気なままのものを手で握った。
「ポタージュって、まさか……。」
桜井の手はもう上下に動き始めていたけど、さっきのメロンのせいか、ぬるぬると根元から先のほうまで滑らかに動いていた。
「抗しなきゃ、どうやって栗坂からスープを取るんだよ。栗坂だってとろ火でことことと三昼夜、なんていうのは願い下げにしたいだろ?」
それはそうだけど、だからってあんなのがポタージュだなんて……。
「頼むよ、本当にいっちゃうよ……。」
僕は駄目になってしまいそうで、桜井にそう哀訴したんだけど、
「栗坂をいかせるために、俺がこうやってるんじゃないか。」
なんて、手の動きをますます速くするのだ。