6時間目は俺の好きな化学で、って言っても、授業が好きだ、なんていう意味じゃなくて(試験で赤点だったりするくらいだから、間違ってもそういうことはあり得ない)、化学の広瀬先生が、……なかなかいいな、と。
「……。」
それを知ってるから、2つほど斜め前の席からかっちゃんが意味ありげな目付きで俺のほうを振り返るんだけど、いつも、
「あんなおっさんのどこがいいんだよ。」
俺のことをあきれてみせるのだ。
「どこ、って、かっこいいだろ?」
このへんが俺の正直な気持ちなんだけど、そんなことを言うと、
「おまえって、本当にどうしようもない奴だなあ。」
なんて、かっちゃんに馬鹿にされるだけなので、
「俺、化学に燃えてるんだ。」
とかって、言ってみるんだけど、
「それで、なんで赤点なんかとるんだよ。」
やっぱり馬鹿にされてしまう。だって、授業中は広瀬先生に見とれててあんまりノートもとってないから、試験勉強をしようにもネタがなくて、あんまりいい点がとれないんじゃないかな、と思うんだけど、このあいだ赤点とったときに広瀬先生に呼び出されて、
「授業は真面目に聞いてるのに、どうしてこんな成績なんだ?」
なんて言われたときは、本当に赤面してしまった。広瀬先生が、俺が授業中に見つめているのを知ってるんだと思うと、それだけで恥ずかしくなって、思わずうつむいてしまったのだ。
「赤点は、きっと、俺と化学の相性が悪いせいじゃないかな。」
かっちゃんには、そう言って弁解したんだけど、
「授業中に、ぼー、っとしてるからだ。」
なんて、てんで冷たかったりする。そりゃ、ぼー、っとしてるかもしれないけど、かっちゃんがクラブでテニスボールを追っかけてるのと、そう大した違いはないような気がするんだけど、そんなことを言ったらなにをされちゃうかわからないので、
「……。」
俺はじっと黙って耐えてるのだ。というよりも、じっと、広瀬先生を見つめているんだけど……。でも、実際のところ、広瀬先生のどこがいいんだ、と言われても、困ってしまう。夏とかだと、ポロシャツだったりすることもあるけど、だいたいはきちんとネクタイをして、本当に普通のサラリーマンが先生をしているような感じなのに……。いつも、落ち着いてて、滅多に冗談なんかも言わないし、優しいとかって言うよりも、どちらかと言えば冷たいイメージで、自分でも、どうして広瀬先生がかっこいいとかって思うのかわからない。でも、やっぱり、化学の時間は、俺にとって、唯一の待ち遠しい授業なのだ。俺なんか、本当に純情だから、こうやって、授業中に広瀬先生を見つめていられるだけで満足してしまう。……なんて、本当は、先生がまだ独身で某アパートで一人暮らしをしてるとか、誕生日がいつだとか、趣味がSF小説だとか、某所をわりとかわいい女の人といっしょに歩いてたとか、だいたいのことは調べつくしてるんだけど、そんなことがわかったって、結局どうしようもないのだ。あーあ、俺ってかわいそう。
かっちゃんのこと 2
土曜日, 4月 13, 1991