かっちゃんのこと 4

土曜日, 4月 13, 1991

 あれだけ嫌がってても、いざ連れ込まれるとそれなりに落ち着いちゃって、全然抵抗もしない自分が情けない。
「お袋が、『幸介君、泊まって行くんでしょ』って言ってたから、泊まって行けよ。」
そう言われて、ほとんどその気になってしまっているけど、それというのも、俺の両親が子供の外泊に無頓着過ぎるから、俺がこういうことになっちゃうのだ。だいたいが、俺のお袋なんか、
「あなたが帰ってこないと手間がかからなくていいわ。」
なんて、本当に俺を生んだのか疑ってしまう。こんなことでは、そのうち俺が非行に走ってしまうんじゃないかと、我ながら心配なんだけど、少なくとも不純同性交友に関しては手遅れみたいな気がする……。でも、相手がかっちゃんじゃ、しゃれにもならないなあ。どうせだったら、後輩の佐々木みたいにかわいい奴が……。それで思い出したけど、
「ひょっとしてさ、佐々木がやめちゃったんだって?」
佐々木は、よせばいいのにかっちゃんと同じテニス部に入って、テニスボールを追っかけるだけの青春を送っていたのだ。それが、このあいだ、放課後の早い時間に校門のところで会って、
「あれ、クラブは?」
なんて聞いたら、
「僕、やめちゃったんです。」
なんて、ちょっと暗かったから、気になってたのだ。
「そうだよ、あいつ、俺がかわいがってやっていたのに……。」
かっちゃんが佐々木のことをかわいがっていたかどうかは怪しいもんだけど、
「佐々木は、俺の後輩なんだぞ。」
少なくとも俺は、不純な動機をぬきにしても、かわいいな、と思ってて、かわいがってたのだ。
「そう言えば、いつかそんなことを言ってたよな。」
そうだよ。
「どうしてやめちゃったんだよ。」
かっちゃんは、俺の方を、ちら、と見てから顔をそむけた。
「……?」
なんだか、嫌な雰囲気だったりする。
「本当に知りたいか?」
そういう、もったいぶった言い方は、あんまり好きじゃないな。
「うん。」
俺がうなずくと、かっちゃんが急に立ち上がって、ベッドに腰をかけてた俺の方に迫って来た。そして、俺の両肩をつかむと。
「こんなふうに、襲われたからじゃないか?」
いきなり、ベッドに押し倒しちゃうのだ。
「な、なんだよ……!」
えー、この状況をどう判断すればいいんだろう。
「佐々木は、こうやって……。」
キスされちゃったっていうわけなんだろうか?
「……。」
キスをすると、どうしてだかわからないけど、勃っちゃうんだよなあ。ひょっとしたら、俺って、自分で思ってるよりは淫乱なのかもしれない。
「佐々木は、キスされたぐらいじゃ、こんなにはならなかったみたいだけどな。」
かっちゃんなんか、俺が堅くしてるのをからかうんだけど、自分だって、突っ張っちゃってるくせに……。
「それから……。」
夕方とはいってもまだ日が暮れていないから、窓の外は明るくて、しかも、その窓にはカーテンさえ引いてないというのに、
「ちょ、ちょっと待てよ!」
かっちゃんは、俺のズボンをトランクスといっしょに脱がせようとするのだ。
「佐々木は、確か、白のブリーフだったな。」
一応、抵抗を試みてはみるんだけど、つい、尻を持ち上げてかっちゃんに協力してしまう自分が情けない。そんなわけで、俺は、片足にズボンとトランクスをまとわりつかせたまま、下半身をむき出しにされてしまった。もちろん、上半身はシャツなんか着たままで、『テーブルの上は純情少年、テーブルの下は発情期』なんていう格好なのだ。かっちゃんはそんなことにはお構いなく、
「佐々木とどっちがでっかいかなあ。」
なんて、俺のをぎゅっと握り締めたりする。俺にだって、一応は羞恥心っていうものがあるから、こういう格好をしてるときにそんなことを言われたら、思わず目を閉じてしまう。でも、考えてみれば、俺が目を閉じたって、なんの解決にもならないわけで、かっちゃんの握っているものは相変わらず元気になったままだし、きっと俺の裸の下半身はかっちゃんにじろじろ観察されているに違いない。
「佐々木は、こうされて、泣いちゃったんだよなあ。」
いきなり、なま暖かい感触に包まれて、俺は、
「うっ……。」
声を出してしまった。声を出したりなんかしたら、かっちゃんに俺が感じてるのがわかっちゃうから、まずい、とは思うんだけど、どうしても声がでてしまう。
「幸介は、佐々木と違って、ちゃんとよがるもんなあ。」
こんな状況で、いちいち佐々木と比べなくたっていいじゃないか。俺がこんな淫乱になっちゃったのには、かっちゃんにだって半分くらいは責任があるんだぞ。
「佐々木も、このくらい素直だとよかったんだけど……。」
もう、俺は、すっかりかっちゃんのいいようにもて遊ばれちゃって、本当に、自分でも感心するくらい、俺の体って素直だと思う。