それで、試験がどうだったかというようなことを俺に尋ねるのは、あんまりだと思うわけで、例によって、俺のノートを略奪していったかっちゃんは、英語でも、もちろん化学でも立派な成績だったのに、俺は……。
「幸介、おまえ、化学でまた追試だって……?」
そうだよ。
「そんなにまでして、広瀬の気を引きたいのかよ。」
そんなわけないだろ。
「かっちゃんが、俺の勉強の邪魔をするから……。」
化学準備室で、広瀬先生に1時間も説教されたんだけど、それを思い出すとなんとなくほおがゆるんでしまう俺は、いったいなんなのだろう。
「広瀬と二人っきりで、何をやってたんだよ。」
かっちゃんは、俺のほおがゆるんでるのに気づいたらしい。
「だから、説教されてたって言ってるだろ?」
実際、広瀬先生にだったら、何時間説教されてもいいような気がする。あんまり成績が悪いと、『体罰』をくらったりして……。あ、俺って、ひょっとして変態なのかもしれない。
「何をにやにやしてるんだよ。」
かっちゃんがうさんくさそうな目付きで俺のことを見てる。
「べ、別に……。」
かっちゃんがいることなんかすっかり忘れて想像の(妄想の?)世界にひたっていた俺は、ちょっとあわててしまう。
「何か、変なことを考えてただろう。」
実は、体の一部分が変形をきたしていて、窮屈になり始めていたんだけど、まさか、そんな素振りはできないから、
「追試のことを考えてため息をついてただけだよ。」
できればその部分の方向を矯正したいのを我慢する。
「だから、俺が家庭教師をしてやるって言ったのに……。」
家庭教師がどうして俺の勉強の邪魔をするんだよ。
「化学なら、俺がなんとかしてやるから、文系なんかに進むなよ。」
一応、理系には進むつもりだけど……。
「理系に進むと、何かいいことがあるのか?」
かっちゃんのおまけなんか期待しちゃいないけど、
「また、俺と同じクラスになれるかもしれないだろ?」
そんなことを言われると、なんだかくすぐったくなってしまう。
「また、英語のノートを取り上げられちゃうなあ。」
かっちゃんにとって、俺は、ノートの供給元、っていうだけじゃないよね、まさか。
「幸介がいないと、俺、本当に寂しいんだ。」
だから、そういうことをまじで言うなよ、照れるから……。
「わかったよ……。」
俺は、思わずうつむいてしまう。
「幸介……。」
かっちゃんが真剣な表情をすると、なんだかおかしい。
「……。」
でも、笑ったりしたら何をされちゃうかわからないから、うつむいたまま、俺がじっと耐えてるのに、
「俺は、本気なんだからな……。」
背中で、笑ってしまう……。
「幸介!」
だって、俺だって、困っちゃうよ。
「おまえって奴は……。」
あー、殴られちゃう。
「……。」
かっちゃんの胸に抱き締められながら、俺は、かっちゃんといつまでもいっしょにいられたらいいのに、と思っていた。
かっちゃんのこと 7
土曜日, 4月 13, 1991