垣本君のこと -ん!?

火曜日, 11月 30, 1982

 何となく、まだ、垣本の頭を抱えて寝てるんだ、ってことが、実感できなかったりするのだ。
「垣本……。」
そう呼んでみると、僕の腕の中で頭を持ち上げて、例の悪戯っぽい笑い方をするから、やっぱり垣本なんだな、なんてやっと納得したりする。
「栗坂さん……。」
高校生の時は、もうちょっと明るい、というか幼い感じの声だったから、声も、年齢と共に大人になってくるだなあ、なんて感心してしまう。
「僕、高校一年の時から、ずっと栗坂さんのこと好きだったんですよ。」
え!!いきなり爆弾発言だったりする。
「ずっと憧れてたのに……。」
そのわりには、いつも素っ気なかったじゃないか。
「全然、そんなふうじゃなかったように思うけど……。」
僕が、泊まっていけよ、って誘っても、
「はい。」
って言うばっかりで、いつも逃げられてたような気がする。そう明確な目的意識はなかったけど、もし垣本が泊まりに来てれば、絶対、犯しちゃってただろうなあ。
「あの頃は純情だったから……。」
僕は思わず笑ってしまった。
「そうか、垣本は純情だったのか……。」
笑ってしまってから、そうだったのかもしれないな、なんてちょっと懐かしくあの頃のことを思い出したのだ。一度、垣本の唇に自分の唇を重ねてから、まじまじと顔を見た。
「垣本とこんなふうになるなんて、思いもしなかったなあ……。」
そうしたら、垣本はくすくす笑って、
「そうですか……。僕は、いつも栗坂さんに腕枕してもらうことを想像して、一人で寂しくやってたのに……。」
垣本は、また堅くなってきたものを、ちょっと自分でしごいてみせた。
「ほんとかなあ……。」
全然、そういう素振りは見せなかったけどなあ。
「ほんとですよ。」
真面目な表情で抗議する垣本が、またかわいいのだ。
「それならそうと、僕に言えば、腕枕ぐらいいつでもしてやったのに……。」
僕がそう言うと、垣本はちょっと機嫌を悪くしたみたいで、
「そんなこと、言えるわけないでしょう。」
わかった、わかった。
「いいじゃないか、今晩、高校の時の分も埋め合わせをするからさ。」
垣本は、くすっ、と甘えた声を出して、僕の肩に頭を預けてきた。
 ゆっくりと垣本の頭を撫でてやると、ほのかに海の匂いがするような気がした。
「でも、そのわりには、今日は、大胆だったじゃないか。」
車の中で垣本のキスに目が覚めたときは、正直言ってあせってしまった。
「あ、あれは……。」
「とても純情な垣本君とは思えないな。」
僕は冗談で言ったんだけど、
「僕だって、大学で、いろんなことがありましたからね。」
あんまりこういう話題には触れない方が無難そうだ。
「久しぶりで栗坂さんにあったら、なんだか、高校時代の自分の純情さみたいなのを思い出して、たまらなくなっちゃったんです。今、ここで栗坂さんにアタックしないと、一生後悔するだろうな、って……。」
それはちょっと大げさすぎるんじゃないですか。
「それに、栗坂さんが、わざと卑わいな格好して、僕を誘惑するんだから……。」
短パンだけ、っていうのは、卑わいな格好なのかなあ。
「そんなに卑わいだったかなあ。」
それには答えず、垣本は、『好き』とかなんとかつぶやきながら、僕にキスを迫ってきた。
 少しうとうとして、はっと気がつくと、もう窓の外は薄墨色になりかけていた。
「あ、ごめん、起こしちゃったか?」
垣本は目を開けて僕を不思議そうに見ると、にこっと笑って、僕の胸に回した腕に力を入れた。
「もう、ずっと以前から、栗坂さんとこうなっていたような気がする……。」
垣本は、僕の肩に顔を埋めたまま、ぼそぼそと言った。
「え!?」
よく聞き取れなかったから聞き返すと、垣本はくすくす笑うばっかりで、何も言わないのだ。
「何だよ、何て言ったんだよ。」
垣本の淫乱な乳首を指でくすぐりながら詰問すると、
「だからさ……。」
と、やっと白状した。
「栗坂さんの腕の中が、僕のいるべき場所なんだなあ、って思ったんだ……。」
うん、なんだか意味がよくわからないけど、納得しておこう。
「垣本……、いつ帰っちゃうんだ?」
「夏休みが終わったら、仕方ないでしょう。……でも、ずっと、栗坂さんといっしょにいたい。」
秋には、大学をサボって、垣本のいる街へ遊びに行こうかな、なんて思いながら、僕は、垣本の頭を抱いていたのだ。