夢精

水曜日, 12月 1, 1982

 ふと気がつくと、僕の頭に伸びていた彼の手はもっぱら本のページをめくるのに使われていたが、そのページは先ほどに比べてだいぶ進んでいるみたいだった。彼は僕が目を覚ましたことにまだ気がついていないみたいだった。それで、ちょっと不安になって、毛布から手を出して僕は彼の逞しい腕にそっと触れてみた。
「お……?」
彼はちょっと驚いたように、視線を活字から僕のほうに移した。
「目が覚めたのか?」
彼の読書の邪魔をしたようになってしまって、僕は何かいいわけをしなければならない気がした。
「本物かな、と思って……。」
彼はしばらく僕の言葉の意味を考えているようだったが、やがて納得した顔になって少し笑った。僕は彼に笑われて初めて自分の言ったことに気づいた。
「え……と……。」
僕が次の言葉を探しているのを見て、彼はまた少し笑った。

 僕は無意識のうちに腰をゆすって、そのもどかしい感覚を楽しんでいた。パジャマの中で堅く突っ張ったものの先端が、ごわごわしたパジャマの布にこすれて痛いような変な感じだった。 
「うう……ん。」
半分ぐらいは目が覚めているものの、まだ半分は夢の中だった。僕はパジャマの中へ手を滑り込ませて、腰の動きがもっと直接にそこへの刺激として伝わるように、それを都合のいい方向へ向けた。カーテン越しのまぶしい朝の光に背を向けて枕に顔をうずめながら、僕はより大きな振幅で、よりリズミカルに腰をゆすっていた。そしてだんだんそのもどかしさに耐えられなくなってくると、今度はパジャマの前からその硬直したものを引っぱり出して、自分の手でシーツに直接ごしごしとこすりつけた。
 そうやって手でシーツにこすりつけたり、腰をゆすってシーツにこすりつけたりしてその刺激を楽しんでいるうちに、僕はやっと自分の手に触れているものが堅くなっていることが理解できるぐらいに目が覚めてきた。そのまま腰をゆすりながら僕は少し迷っていたが、このままおとなしくさせてしまう気になれなかった。いつもの習慣で、枕元の目覚まし時計にちらっと目をやってまだ起きるべき時間にまではなっていないのを確認してから、さっきからずっと刺激を受けているものを握った。
 ぐっと握ると、我ながらごつごつした堅さが心地よかった。手の握力に抗って下腹部に力を入れると、手の中のものはびくっと脈動して、より堅くなっていくようだった。少ししてから僕はまた握っているものに力を込めた。少し痛いのを我慢して、そんなふうに手で握ったりゆるめたりしていると、手の中の堅さが極限に達したような感じだった。腰を浮かしていないと、斜めに向けて布団に押しつけているのが痛いぐらいだった。
 僕はそれを手で握ったまま寝返りをうってあお向けになった。握ったりゆるめたりの刺激にも飽きてきたので、今度は軽く握った手をそのままゆっくり上下運動させた。コリコリしたものの上をおおっている皮膚が手の上下運動につれてグリグリと動いた。僕は思わずため息をついて、生つばを飲み込んだ。手を動かしているうちに、いつのまにか手の動きがなめらかになってきていることに気がついた。さっきからの興奮で粘液がにじんできているらしかった。
 動かしやすくなった手をややピッチをあげて規則的に上下運動させていると、下半身にだんだんと快感が集まってくるような感じがした。その快感をかき集めるように、僕は手の動きを激しくした。どうしようもないような感覚が腰のあたりを走ったかと思うと、僕は自分が手で苛んでいるものを通って体の奥からその快感が噴き出していくのを直接手に感じていた。
 彼はめったに笑わなかったが、時々僕がとんでもないような幼いことを何かの拍子に口にすると、ほんの少しの笑顔を見せた。僕は快感に全身を震わせながら、彼の笑顔を思い浮かべていた。パジャマに点々と快感の名残が飛び散っているのも気にせずに、僕は彼のその笑顔と手の中でまだ時々ピクッと動いているものの感覚の名残に酔っていた。
「ふう……。」
僕は自分の粘液にべっとりと濡れた手を顔のところにもってきて、その匂いをかいだ。ふと、それがどこかで経験したことのある匂いであることに思い当たった。汚れてしまったパジャマを脱ぎながら、僕はいろいろ考えてみたが、少なくともそれは彼が自分の逞しい腹の上に点々と散らす粘液の匂いと同じはずだった。