夢精

水曜日, 12月 1, 1982

 僕はもうどうしていいのか思いつかなかった。謝ってみたり、いろいろと彼のご機嫌を取るようなことを言ってみたりしたが、
「いいんだ……。」
と言うだけで、今日の彼はいつになくかたくなだった。
「いいかげんで、機嫌直せよ。」
僕は彼の肩に手をかけてちょっとゆすってみた。それでも彼は、僕から視線をそらせたまま怒ったような横顔を僕に見せていた。それで僕は思わず彼の肩に置いた手に力を入れて、彼の体を後ろへ引き倒した。思いもよらないことだったろうから、彼の体はあっけなく床の上にひっくり返った。
「何をするんだよ。」
その口調も、怒りというよりは彼の狼狽を示していた。
「うるさい。」
彼は僕の腕の下でもがいて起き上がろうとした、僕にしてもそんなつもりではなかったのだが、彼がもがいているのを見て、僕のやりたいように彼をもてあそんでみたくなったのだ。
「おとなしくしろ。」
僕はむさぼるように彼の唇を吸いながら、荒々しく彼を裸にしていった。彼はあっけにとられたのか、それとも僕の意図を納得したのか、少しおとなしくなった。そうすると僕は、彼の抵抗がないことが気に入らなくて、瑞々しい筋肉のついた彼の体のあちこちに歯形をつけていった。
「痛っ。」
彼は本気になって僕から逃れようともがいた。僕は彼のもがきを利用して自分の口をだんだんと目標に近づけていった。
 そう大した刺激を受けていたわけでもないのに、僕が口の中に吸い込んだものは充分な堅さと熱を帯びていた。僕がぬるっと口の中にそれを吸い込むと、彼は体を堅くしてわけのわからない声を出した。そうすると僕は、また彼のその態度が気にくわなくて、口の中にあるものに歯を立ててしまった。もちろん手かげんはしたが、そうとう痛かったのか彼は声を上げた。
「痛っ……。」
僕は彼が痛がったことに満足して、今度は先のほうの平たい部分を舌でざらざらとなめまわした。そこは少し塩辛い汗の味がした。そうやって僕が舌と歯を使って彼が切ながったり痛がったりするのを楽しんでいるうちに、
「出、出そう……。」
と、彼は少し恥ずかしそうに言った。それで、彼が痛がるのも無視して今度は歯を立てるのを主にやったが、僕がぎゅっと少し強くかんだ時、そこはぐっぐっとけいれんをし始めていた。
 まだ少し残っている自分の放出物をティッシュペーパーで拭き取りながら、彼はばつの悪そうな顔をしていた。
「シャワーでも浴びてこいよ。」
僕も舌の上にねばねばと残っている彼の匂いを感じながら、つとめて無表情に言った。
「うん。」
彼はほっとしたようにうなずくとバスタオルを肩に引っかけて浴室の方へ歩いて行こうとした。
「好きだよ。」
僕が彼に聞こえるかどうかぐらいの小さい声で言うと、彼はぎくっとしたように立ち止まった。僕は言ってしまってから顔が熱くほてってしまったが、彼も振り返らずに少しうなずいたようだった。僕は、
「愛しているよ。」
といったほうがよかったかな、と思ったが、その考えのあまりの皮肉さに思わず苦笑してしまった。