彼には、わかっただろうか。
その時、僕は、居心地のいい暖かい彼の胸にもたれながら、無防備なままで、晩飯のネタを何にしようかとか考えていた。そして、彼は、まるで思いつきのように、
―知を泣かせるのなんか簡単だな。
とつぶやいたのだ。
―え?!
僕が身をよじろうとするのを、彼の腕の重さが邪魔する。
―二、三日も電話しなきゃ、絶対、泣いちゃうだろう?
その言い切った声が、決して僕の答えを期待していないことに、僕は心を貫かれるような思いだった。一瞬の間を振り切って、
―そんなことないよ、僕は、強い子だもん。
笑って誤魔化しながらも、僕は、じっと体を固くしてしまった。ほんの一瞬のことだから、彼にはわからなかったかも知れない。でも、きっと、僕は、その時から気づいていたんだろう。
時間ゲーム -すれ違ってしまったSに-
土曜日, 1月 31, 1987