知くん子守唄(ララバイ) -B

月曜日, 9月 30, 1996

例によって例のごとく、俺は、はにかんでみせる知くんを、無理矢理、押し倒すようにしてベッドに寝かせた。
「先輩……。」
知くんは、ささやくような言い方で、俺の耳たぶをくすぐるのだ。
「本当に甘えん坊だな、知は。」
こうして欲しいわけだろ?
「だって、先輩の腕枕って、寝心地がいいんだ……。」
腕枕だけじゃないだろ、知くんが好きなのは?
でも、そういう言い方は、ちょっと露骨に過ぎるかなあ。
「じゃあ、俺は、知の枕ってわけか?」
枕はキスなんかしてくれないぞ。
「そんなことないけど……。」
知くんは、俺の肩に顔を押し当てちゃって、まったくうらやましいよ。
「俺だって、たまには、腕枕ぐらいして欲しいよな。」
知くんは、俺がそんなことを考えるなんて、思いつきもしないらしい。
「え?!」
こういうことを言うのは、なんだか恥ずかしい気もするけど、
「俺だって、たまには甘えてみたいよ。」
ちょっとガキかなあ。
「……?」
なんだよ、その不思議そうな目つきは。
「知に甘えたい、っていうわけじゃないよ。」
まあ、こんな気持ちをわかってくれ、っていうほうがもともと無理があるんだろうし、そういう意味では知くんには罪はないのだ。
だから、もうちょっとさり気なく響くだろう表現を試みてみたりする。
「知なんか、いいよな。若いから……。」
さり気ない表現の割には、なんだかひがみっぽい言い方になっちゃうところをみると、残念ながら、俺も、知くんの曰く『おぢさん』になりつつあるのかなあ。
「二つしか、年齢は違わないでしょう?」
そのくせ、俺のことを、いつも『おぢさん』呼ばわりしてさ。
「でも、二つしか違わなくても、知は俺に甘えてるんだぜ。」
今だって、ちゃんと腕枕してやってるだろ?
俺の腕の中にいる知くんの体が、ちょっと緊張して、
「……それとこれとは。」
知くんは、ちょっと言葉に詰まっちゃった。
「違う、っていうわけか?」
駄目だなあ、俺って。
知くんが困ると、自分で困らせたくせに、すぐ助け船を出しちゃうんだから。
「まあ、そういうこと……。」
知くんは、いかにも、ホッ、としちゃって、俺の肩の上の顔をちょっと動かした。
「別に、知に甘えられるのが嫌だ、ってわけじゃないよ。」
こんな弁解なんかもして、知くんがご機嫌を斜めにしてしまわないように努めるんだから、俺も大変だよな。
「ふうん。」
でも、知くんは、全然、俺の言ってることの意味がわからなかったらしくて、気のない返事をして寄こした。
結局、俺の言い出し方がちょっと悪かったみたいだ。
そういうことなら、ちょっと作戦を変更して、直接攻撃をかけることにしよう。
こんなことにしつこくこだわるなんて、なんとなく、子供じみてるような気もするけど……。
「でも、なんだかんだ言っても、知のは、半分以上、演技だからなあ。」
こんなにはっきり言っちゃっていいんだろうか。
「演技、って……?」
俺の意図に気づいたらしく、知くんの声が少し用心深くなった。
「甘えてみせるだけ、だろ?」
挑発的に過ぎるかなあ?
「そんなこと言ったって、俺、先輩に甘えたいもん……。」
その台詞が演技じゃなけりゃ、大したもんだよ、知くん。
「まあ、要するに、知は、自分でやっちゃうからいけないんだよな。」
でも、めげずに俺は、もっと露骨な表現を選んだりして……。
「自分で、って……?」
知くんは淫乱だから、俺が真面目な話をしていても、すぐそういう方向に誤解してくれるのだ。最も、俺も、それを狙ってるんだから、あんまり正当なやり方とは言えないけど……。
「ほら、すぐ、そういういやらしいことを想像する!」
俺が、知くんの頭を腕の中に巻き込みながらそう言うと、
「い、いやらしいことなんか考えてないですよ。」
知くんは大あわてだ。
この機会を利用しない手はないから、もうちょっと追求してみる。
「うそつけ!」
知くんは俺の腕の中から逃れようとしてもがきながら、
「う、うそじゃないですよ。俺は、純情な少年なんだから……。」
形勢が不利になると、すぐ、そういう苦しい言い訳で誤魔化そうとするのは、よくないクセだぞ。
「変な言い訳するところが、いよいよ怪しいな。」
もう逃げられないぞ、知くん。
「そ、そんな……。」
こうなったら、とことん自白を強要してやろう。
「こら、白状しろ。」
白状しないと……。
「俺、本当にいやらしいことなんか考えてないですよ。」
本当の本当は考えてたくせに……。
「そうかなあ。」
俺が半信半疑の声で言うと、知くんは確信を持った声で、
「そうですよ。」
と、すっかり安心した様子。でも、まさか、これで俺が納得するなんて思ってるわけじゃないよな?
「じゃあ、これは、どう言い訳するんだ?」
だいたいにおいて淫乱な知くんの肉体は、さっきから勃ちっぱなしなのだ。
「あっ、こ、これは、……さっきから、先輩が変なところを触るから……。」
ちょっと乳首をいたずらしてただけだろ?
「俺、変なところなんか、触ったかなあ。」
あくまでポーカーフェイス。
「とぼけないでくださいよ。」
というわけで、知くんは、ほとんど俺のペース。
かわいいからいじめてみたい、っていう真理は、知くんといっしょにいると理解できてしまうから実に怖い。
「変なとこ、って、ここだったかなあ。」
俺の指は、Tシャツの裾からもぐり込んで、知くんのかわいい乳首をこりこりころがしてたりする。
「うっ……。先、先輩、駄目ですよ。」
知くんは、乳首とへそがうれしいところなんだよな。
「こう、だったかな?」
俺が、手をへその方に移動していくと、
「あっ……。」
まだ到着していないのに、知くんなんか、期待で体を緊張させるのだ。
「何だよ、まだ触ってもいないのに感じちゃって。」
こういう時の知くんは、はっきり言って、全身性感帯だから、胸から腹にかけて、俺の手が撫でただけで、感じちゃうわけだ。
「先輩が、変な触り方をするから……。」
自分の体が感じやすいのを、俺のせいにするんじゃないの。
「へえ、じゃあ、こういう触り方はどうだ?」
指の先でこするようにするといいんだよな。
「っ……。知っててやるんだから。」
ははは、すみませんね、知くんの弱点を知っていて。
でも、面白いから、もう少しやってみることにしよう。
「知は、どこを触っても反応するから、面白いんだ。」
反応してくれるから面白い、と言い換えたほうが正確かなあ。
「俺の体で遊ばないでくださいよ。」
遊んでる、といわれるのは心外だけど、まんざら当たってないわけでもないか。
「じゃあ、よそうか?」
でも、知くんだって、結構うれしがってるはずなんだ。
「……。」
ほら、やっぱり。
「本当はそんなに嫌じゃないくせに……。」
そうしたら、知くんは、ちょっと不機嫌そうな顔になって、
「俺のこと、おもちゃにして……。」
そのくせ、まんざらでもなさそうな声で言うのだ。
さんざん俺のレポートの邪魔をしておきながら、そういうことを言うのは、かなりかわいくないぞ。
「そんなことないだろ。知だって楽しんでるじゃないか。」
だから、余計に、おもちゃにしたくなっちゃうのだ。
「こんなのセクハラだよ……。」
泣き真似なんかしたって駄目。
もうちょっと俺のいたずらにつき合ってもらわなくちゃ満足できないから、
「俺だったら、自分で感心しちゃうな。こんなところまで感じちゃうなんて……。」
知くんは、脇腹だって、背中だって、十分すぎるくらい感じちゃうんだような。
「あっ……。いちいちやってみなくてもいいでしょう?」
だって、こうやって、いちいち撫でてみなきゃ、知くんは反応してくれないだろう?
「自分でやる時も、こうやってるのか?」
ついつい、こんな意地悪も言ってみたくなるんだよな、知くんが相手だと……。
「そ、そんなことやりません。」
どもっちゃったりして、怪しいぞ。
「本当は、自分で撫でてみたりしてるんだろ?」
性感過多の知くんは、乳首をいたずらしている俺の手を押さえにきた。
「やらないったら。……だって、自分でやっても何にも感じないよ。」
俺は、知くんが逃げられないように、知くんの指に俺の指をからませた。
「……。」
ちょっとやり方が汚かったりするかなあ。
「何ですか?」
さりげなく、知くんの掌を親指でひっかくようにすると、知くんの目がちょっと潤んでくるように思えるのは、気のせいかなあ。
「ほら、やっぱり、やるっていう言葉で、そういうヒワイなことを連想してたんじゃないか。」
はっきり言って、あんまり紳士的な会話じゃないよな。
「あー、ひどいなあ。そんなの誘導尋問ですよ。最初にヒワイなことを言ったのは先輩のほうでしょう?」
今さらあがいても遅いよ。知くんが淫乱だって言うことは、これで証明されちゃったわけなんだから。