知くん子守唄(ララバイ) -C

月曜日, 9月 30, 1996

だけど、これじゃ、まだ満足できなくて。
つまり、もっと知くんに反応して欲しかったりするから、
「きっと、独りになると、いつもいじっていたずらしてるんだな。」
とかって、より過激な言葉でいじめてみたりする。
そんなことを言いながらも、知くんが自分でいたずらをしているところを想像すると、そそる、っていうよりもなんだかほほえましいというか、おかしくなってしまう。
「違いますよ。」
まあ、淫乱な知くんがそういうことをやらないはずがない。
「じゃあ、やらないのか?」
いつになく厳しく追及するもんだから、知くんは、ちょっと困惑気味で、
「そりゃ、時々は、やるけど……。」
しぶしぶ肯定した。
「知のことだから、講義中なんかでも、ポケットから手を突っ込んでいじってたりなんかしてるんだろう?」
真剣に考えてる時はそんな気にもならないけど、退屈な講義だったりすると、やたら勃っちゃう時っていうのがあるんだよな。
「そんなことやりませんよ!」
そうやって、マジで否定するところが怪しい。
「じゃあ、絶対に、一回もやったことがないのか?」
たぶんあるはず。
「そりゃ、全然、ない、っていうわけじゃないけど……。」
ほら。
「あるんだろ?」
本当にあるのかよ。
「ある、って言っても、一回か二回ですよ。」
これは問題発言だなあ。
「二回もやれば十分じゃないか。」
へえ、わかんないもんだよな。
知くんみたいに真面目そうな顔してても、平気で、講義中にオナニーなんかやっちゃうわけか。
それなりに淫乱だとは思ってたけど、これは、知くんに対する認識を、もっと淫乱の側に改める必要があるみたいだ。
「どんなふうにやったんだ?」
意外と、大胆にも、むきだしにしてやった、とか?
「どんなふうに、って……。」
それとも、オーソドックスにポケットあたりかなあ。
「例えばさ、勃ったやつを取り出してしごくとかさ。」
それにしても、後始末はどうしたんだろう。
「そ、そんなこと、講義中にできるわけないでしょう!」
君なら、できる。
「知のことだから、やりかねないと思うけどなあ。」
だって、ほら、トランクスの中身は、さっきからカチンカチンじゃないか。
「俺のことを変態みたいに……。」
俺に握られて、下腹部にピクンと力を入れながら、そのくせ、口ではこういう強がりを言うんだよな。
「あれ、変態じゃなかったのか?」
俺の言葉に、知くんは口をとがらせちゃって、べそをかく一歩手前といったところ。
「もう、先輩……。」
怒ったふりをして俺に抱きついてくるところなんか、すごくかわいいんだよなあ。
「何だい、知くん。」
抱きしめながら背中を撫でると、淫乱知くんは感じちゃって、俺の太腿に当たった堅いものが、ヒクン、と反応するのだ。
「俺、真剣に怒りますよ。」
そう言う知くんだけど、すでに、体の一部は、ガチガチに怒ってるみたいだぞ。
「ふうん、知が怒るところなんて、一度見てみたいな。」
俺がてんで相手にしないもんだから、
「うーん、先輩……。」
鼻面を俺の胸にこすりつけて甘えるのだ。
「ほら、自分の都合が悪くなると、すぐ甘えて誤魔化すんだから……。」
いつも誤魔化されちゃう俺のほうにも、多少の問題あるよな。
「だって……。」
子供みたいに、駄々をこねるふりをして、そこがかわいいと言えば非常にかわいいんだけど……。
機嫌を直してくれることを期待して、俺の胸に押しつけられた知くんの顔を持ち上げて唇を近づけていく。
礼儀正しい知くんは、ちゃんと目をつむって、俺の舌を素直に受け入れてくれた。
「そのくせ、えらくドライだからな。知なんか……。」
こんな他愛ない仕草でも、知くんの機嫌を直すには十分なのだ。
「ドライ、っていうことはないと思うけど……。」
知くんはそういって、ちょっと首をかしげてみせた。
「俺なんか、いつも、はぐらかされちゃうもんなあ。」
知くんは、そういうことに全然気がついてないもんだから、
「はぐらかされちゃうのは、俺のほうでしょう?先輩なんか、いつもレポートばっかり書いてて、俺のことを無視するんだから……。」
独断と偏見に満ちあふれたことを平気で言うのだ。
「そういうところがドライなんだよ。」
俺には、甘えるスキさえ与えてくれないんだから……。
「でも、俺って、どっちかって言うと、ウェットなほうでしょう?」
ウェットなのは、ここだけだろう?
俺が握ってるだけで、あふれてきた粘液でぬるぬるになっちゃうんだから。
「……先輩だって、いつも、俺のことを、甘えん坊だ、って言ってるじゃないですか。」
甘えん坊とドライとは、全然関係がないんだぞ。
「そんなのは、ポーズだけだからな、知の場合は。」
まったく、猫かぶりが上手いんだよな。
「ポーズなんかじゃないですよ。」
駄目だよ、誤魔化したって。
俺自身が、知くんと2つしか年齢が違わない、っていうことをちゃんと認識してなかったから余計そうだったのかもしれないけど、
「最初の頃は、知のことがあんまりよくわかってなかったから、しょっちゅうそのポーズにだまされてたんだよなあ。」
甘えん坊のポーズで、俺の反応を確かめようとするんだ。
「俺、先輩をだましたりしませんよ。」
無意識でだましてるから、罪が深いんだよな。
「……うっかり油断して、かわいい知くん、なんて言ってると、とんでもない肩すかしを食わされちゃうんだ。」
かわいがってりゃいいと思っている時に、『俺はそんなガキじゃないよ』なんて軽蔑的な目つきをされると、やっぱり、ドキ、っとしちゃうもんな。
「かわいい、なんて言ってくれないくせに……。」
知くんのことを、マジで、かわいい、なんて面と向かって言う勇気はないよ。
いくら、そう思ってたって。
「そのかわり、いつも似たようなこと言ってやってるじゃないか。」
抱きしめて、頭を撫でてやってるだろ?
「そうかなあ……?」
なんだよ、そんな疑わしそうな声で……。
「重いのに、いつも腕枕だってしてやってるだろう?」
疲労困憊してる時には、ご遠慮願うこともあるけど。
でも、たいていは、子守唄がわりに腕枕してやってるじゃないかよ。
「それはそうだけど……。」
例によって口をとがらせる知くんの表情が、本当苦きなもんだから、ひょっとして、自分は知くんのことを買いかぶりすぎているのかも、なんて一瞬思ってしまう。
「わがまま、というべきなのかなあ。」
ただの甘えん坊だったら、どれくらい扱いやすいことか。
「俺のこと?」
もちろん、君のことだよ、知くん。
残念ながら、現実は理想とはほど遠くて、知くんがただの甘えん坊なんていうことはもちろんない。
「俺に、よしよし、なんて言わせようとするくせに、実際に俺がそういってやると、ふん、なんていう顔するんだよな。」
そんなふうに、知くんにつまらなさそうな顔をされると、やっぱり、がっくり落ち込んじゃうもんなあ。
「あー、そういう言い方って傷つくなあ。」
知くんでも傷ついたりするんだろうか、真剣な疑問。
少なくとも俺よりは面の皮が厚いくせに。
……なんていうことを言っちゃうと、また、御機嫌を直してもらうのが大変だから、ここはポーカーフェイスにしよう。
「まあ、早い話が、素直じゃないんだよな。」
でも、腕枕をしてやってる時なんか、意外に素直なところもあったりして、だから、混乱させられちゃうんだよなあ。
「ひどいよ、先輩。さっきから、さんざん俺の悪口を並べて……。」
こういう時の知くんは、はっきり言って、自分の体格のことを全然考えてないんだよな。
「そういう乱暴なじゃれ方はよせって言ってるだろ……?」
もう少し大人しくじゃれてくれないと、知くんに本気でのしかかられたんじゃ、俺だって苦しいんだから……。
「先輩……。」
結局のところ、知くんの頭は、俺の肩の上におさまることになるのだ。
「わかったよ、これでいいんだろ?」
そっと頭なんかを撫でてやると御機嫌なんだから、そういう意味じゃ手がかからないんだけど……。
「うん……。腕枕より、方の上の方がもっと寝心地がいいんだ。」
俺のことを寝心地の善し悪しで判断されちゃ困るなあ。
「まったく参っちゃうよなあ。俺は知の枕なんだから……。」
そうしたら、憎まれ口だけは、ちゃんと一人前で、
「枕はそんな余計なことをしゃべったりしませんよ。」
なんて言うくせに、大あくびなんかして、
「もう眠いのか?」
てんでガキだったりする。
「ちょっとね……。」
俺もそろそろ眠くなってきたかな。
「もう寝ようか?」
知くんは、今度はあくびをかみ殺しながら、
「うん……。」
とうなずいてみせるのだ。素直でよろしい。今日は、レポート書きと、知くんのお守りのマルチタスクで疲れちゃったからなあ……。
「先輩……?」
…………。