知くん子守唄(ララバイ) -E

月曜日, 9月 30, 1996

困っちゃうよなあ、後始末をしてやると、また、すやすや眠っちゃうんだから……。
「ほら、もういい加減に起きろよ。」
いったい何時間眠れば気が済むんだ?
「う……ん、眠い……。」
あれから俺が、机に向かってレポートの最後の仕上げをやり終わっても、まだ眠ってるんだからなあ。
「あれからまたねむって託せに、どうして眠いんだよ。」
そんなに眠るから、こんなデカチンに育っちゃったんだろう。
「だって、肉体労働で、疲れちゃったから……。」
疲れた割には、ビンビンしてるじゃないか。
「何が『肉体労働』だよ。さっさと起きないと捨てていくぞ。」
いつまでも知くんの相手をしてもいられないから、俺は、ジャージを脱いで、洗濯してあった新しいにはきかえると、
「えー、先輩、講義に出るんですか?」
知くんにも洗濯した黄色いトランクスを投げてやったけど、困ったことに、裾のところから意味ありげに指を突き出したりして遊んでるだけで、一向に事態の深刻さが理解できていない。
「当たり前だろう?午後の講義は出席をとる講義なんだぞ。その上、今日はレポートの提出期限なんだから、どうしたって行かなくちゃ。」
できることなら、留年なんていう事態とは無縁な学生生活を送りたい。
「あーあ、なんだかんだ言って、自分だけ服を着ちゃってるんだから。」
しぶしぶ黄色のトランクスをはいている知くんの裸の腰が、やけにわいせつだったりする。
「知がさっさと起きないからだよ。」
目が覚めてからでも、いつまでも布団の中でぐずぐずしてて、本当に時間がかかるのだ。
「うーん、まだ眠い。」
ついでに手間もかかる。
「ほら、今からなら、まだモーニングにも間に合うからさ。」
午前中の講義にも間に合ってくれれば、もっと嬉しかったんだけど……。
でも、残念なことに、モーニングくらいじゃ知くんにとって充分に魅力ある対象とはなり得ないらしくて、
「俺、トーストなんかいらない。」
と言われてしまった。
「知はいらなくても、俺は食いたい。」
朝食を抜くのは、身体によくないんだぞ。
「トーストなんか食うと、腹が出ますよ、先輩。」
余計なお世話だ。もっとも、正確に言えば、トーストよりも一杯の熱いコーヒーのほうに執着があるんだけれども……。
「くだらないこと言ってないで、さっさと起きろ。」
早くしないと、布団を取り上げちゃうぞ。
「眠いよ。」
そんな顔したって駄目。
「ほら、シャツを着て……。」
知くんの初々しい乳首を隠しちゃうのは、本当はちょっともったいない気もする。
「俺、今日の午後は講義ないもん。」
うそをついたって駄目だぞ。知くんの講義の時間割ぐらい、俺はちゃんと憶えてるんだからな。
「知だって、『社会学』があるんだろう?落とせない単位のはずじゃないか。」
知くんは顔をしかめて、
「今日は、自主休講にする。」
とのたまわった。
「ちゃんと出席しないと、単位を落としちゃうぞ。」
まったく、どうしてこんなに寝起きが悪いんだろう。
いつものことだけれど、知くんの寝起きの悪さにはあきれてしまう。
そして、例によって、ちょっと油断していると、
「眠い……。」
また布団にもぐり込んでしまったりするのだ。
「あきらめの悪いやつだなあ。ほら、これを着ろよ。」
椅子の背もたれにかかっていたトレーナーを投げてやったんだけど、それだけじゃ不満らしくって、
「先輩が着せてくれるんなら……。」
着てもいいかな、なんて、本当に困っちゃうんだけど、知くんがかわいいから、つい、そのトレーナーを着せてやったりする。
「まったく、知の甘えん坊には、ため息が出ちゃうよな。」
トレーナーの下はトランクスだけだから、むき出しになっている知くんのセクシーな太腿が嬉しくて見つめてしまう。
「何をじろじろ見てるんですか。」
ちょっといたずらっぽい目つきの知くんがニヤニヤしている。
「じろじろなんか見てないよ。」
知くんに気持ちを見透かされたような気がしてなんだかドキドキする。
どうして知くんは、他人の視線に、不思議なくらい敏感なんだろう。
「これだから、オヤジはいやだなあ。」
……言ってくれるじゃないか。
「都合のいい時だけ、俺のことをオヤジ呼ばわりするんだから。」
でも、知くんのニヤニヤを見ると、俺の口からは、ため息にも似た独り言しか出てこない。
「早くしないと、モーニングに間に合いませんよ、先輩。」
知くんなんか、こういう時は、本当にわがままいっぱいだから、
「誰のせいで遅くなったと思ってるんだよ。」
俺の声が、思わず上ずっちゃったりするんだけど、
「先輩が、もっと早く起こしてくれればよかったのに。」
こんなことを言われてしまうと、さすがに、怒ったふりをしてみせる気にもならなくなってしまう。
「勝手なこと言っちゃって……。ベッドから出るのに30分もかかってたのは知だろ?」
とにかく、知くんのこの寝起きの悪さには辟易させられるのだ。