誕生日のプレゼント エピローグ

金曜日, 4月 3, 1998

 俺は、その夜、さっそく彼の電話番号を回していた。
「もしもし?」
なんだか、ちょっと恥ずかしそうな彼の声は、俺の耳に心地よく響く。
「俺だよ……。」
ちょっと微笑う気配があって、
「……今日は本当にありがとう。」
俺も、つられてちょっと微笑ってしまう。
「今度は、もっとちゃんとしたところへ行こうな。」
俺が言うと、
「ちゃんとしたところ、って……?」
彼は、本当に笑ってしまった。俺は、受話器から流れてくる彼の声を楽しんでいた。
「……。」
彼は、ちょっと言いにくそうにした後で、
「ほんとは、今日、誕生日だったんだ。」
受話器の向こうで、恥ずかしそうにつぶやく。
「え?駄目じゃないか、そんなこと、教えてくれなくちゃ。」
そうとわかってたら、電車で引き回したりしなかったのに……。大慌てで、今度会ったときのプレゼントは何にしようかと、俺は、心の中で贈り物のカタログをめくる。
「いいよ、わざわざ……。」
受話器から聞こえてくる彼の声に、俺は、彼のにこにこした笑顔を思い浮かべている。
「そういうわけにはいかないだろ?」
誕生日ぐらいプレゼントしなくちゃ、数少ないプレゼントの口実なのに……。
「ネクタイでもプレゼントするかなあ……。」
明日はさっそく探しに行こう。
「どうして?」
彼に似合うネクタイを選んでみたい。
「ネクタイは、象徴的なものらしいから……。」
それとも、他のものがいいだろうか。
「本当にいいよ。……もういっぱいもらってるから。」
彼は、ちょっと笑っている。
「え?」
俺は、彼の言葉の意味を図りかねる。
「思い出を、いっぱい、もらってるから……。」
こいつ、何気なくこんな小賢しい台詞を吐くなんて……。俺は、何も返事ができなくて、ただ、受話器を握りしめていた。
「いっぱいキスマークも付けてもらったし。」
彼は、また、訳の分からないことを言う。
「え??」
俺が、また首を傾げていると、
「僕の心の中は、キスマークでいっぱいだよ。」
普通の声で、そんな気障なことをさらっと言ってのけるところが、たまらなくかわいい。電話じゃなければ、このまま、ぎゅうっ、と抱き締めてkissをするに……。
「そうか。」
俺は、素直にうなずいた。キスマークをつけられたのは、俺のほうだ、と思いながら……。

(Rに……。)