酒酔草 -健太郎 5

木曜日, 1月 7, 1999

 大介の部屋は、こざっぱりして、なんとなく、ありがちな感じで、僕は、ちょっと笑ってしまった。
「何がおかしいんだよ……。」
大介も、きっと僕の笑いの意味に気がついたらしくて、でも、そんなに嫌そうではなかった。
「どうせ、僕は……。」
少なくとも、魅力的だよな、大介は。それ以上余計なことを言わせたくなくて、僕は、大介の唇に自分の唇を重ねた。大介の唇は、ゆっくりと素直に僕の唇になじんできた。すると、その時、
「電話が鳴ってるよ?」
大介の部屋の電話が鳴り始めた。
「いいんだ。」
僕の両腕の中にいる大介の体が堅くこわばっている。きっと、大介のつき合ってる人からに違いない。もちろん、大介だって、それはわかっているはずなのだ。僕の頭の中には、いろんな想像が駆けめぐったけれども、僕がとやかく言うことじゃないと思ったので、僕は電話の呼出音を無視して、そのまま、大介の唇を犯し続けた。
「ん……。」
大介は、僕に唇を犯されながら、ベッドに倒れ込んだ。僕は、大介の首筋に唇をはわせながら、大介の着ているものをはぎ取っていった。
「あ……っ。」
大介は、かすかに声を上げて、首をのけぞらせた。その声は、僕を獣状態にするには十分卑わいだった。
「あ、健太郎……。」
僕は、大介の体を隅々まで犯すことしか考えていなかった……。
 終わった後で、僕が、腕枕をしながら大介の顔をのぞき込むようにしていると、
「ありがとう、つきあってくれて。」
大介は、ちょっとはにかみながらそう言った。ううん、そんなことないさ。
「僕のほうこそ……。」
冷静になって考えれば、大介相手に、あんな派手なことをやっちゃっていいのかな、とは思うけど、でも、もうやっちゃったんだからしょうがないよな。
「すごくうれしかった。」
びっくりするくらい近くに、大介の顔がある。
「こ、こんなことでよけりゃ、いつだって……。」
って、いったい何を言ってるんだろう、僕は。
「そうだね……。」
大介は、意味深な笑いをしながら、僕にキスをした。舌を絡ませても、それは、妙にドライな感じで、しばらくすると、大介の唇は、すっと、あっけないほど簡単に僕から離れていった。体のぬくもりはあっても、僕の腕の中にいるのは、大介なんだ。決して、彼じゃない。きっと、それは、大介にとっても、同じなんだろう。大介を抱いているのは、僕で、大介のつき合ってる人じゃ、決してない。
「今日さ、マスターに言われたのが、やっぱり、ちょっと辛くて……。」
大介は、僕の肩に顔を埋めるようにしながらそうつぶやいた。
「うん……。」
僕は、大介の頭をゆっくりと撫でてやった。
「わかってるつもりなんだけど……。」
まあ、あれじゃ、誰だって、辛くなるよ。
「……。」
僕は、健太郎にささやくようなキスをした。
「ごめん、健太郎には悪いな、って思ったんだけど……。」
いいんだって、そんなこと言い訳しなくても。
「ずっと、彼の顔が浮かんできて、なんだか……。」
大介って、こんなにかわいいんだ。きっと、大介は、僕が思ってるよりも、もっと、純情なのかもしれない。僕なんか、全然、彼の顔が浮かんだりしなかったけどなあ。
「だけど、気持ち良かった……。」
大介の声が、心細げに響いた。全然フォローにならないことはわかってたけど、
「いいじゃないか、減るもんじゃないし。」
僕は、そうつぶやいた。ひょっとしたら僕の言葉は、まるで、自分自身に言い聞かせているように響いただろうか。いきなり、大介は、上半身だけ起き上がって、
「でも、健太郎だから、部屋に誘ったんだよ。」
そう言うと、僕におおいかぶさってきて、ゆっくりとキスをした。それは、さっきのドライな感じのキスではなくて、ねっとりと、僕の心までからめ取っていくようなキスだった。
「……。」
ぼくは、大介と、そのつき合っている人のセックスに立ち会っているような感覚になって、どきっ、とした。
「大介、その人の、どこが好きなんだ?」
僕が、大介にそう尋ねると、大介は、その人の面影を思い浮かべたらしくて、瞳をきらきらさせながら、
「全部、かな……。」
と言ったけど、すぐに、ちょっと寂しそうな笑顔になった。
『そうだよな、好きになったら、全部好きなんだよな。』
僕は、そう思いながら、でも、なんだか悪いことを大介に尋ねたような気がして、
「……。」
おかえしに、僕にできるだけの心を込めたディープキスをした。大介の両腕に、ぎゅうっ、と抱き締められながら、僕は、大介が純情なだけの奴じゃないことを再確認していたのだ。