高橋先輩のこと 4

木曜日, 1月 31, 1980

 時々、自分はやっぱり淫乱なのかなあ、と思う時があるんだけど、その時もそんなふうに思わざるを得ないぐらい高橋先輩の体が欲しかった。僕が汗びっしょりになって先輩の横に寝てしまった時、憎らしいことに高橋先輩はまだ服を着たままだったのだ。
「先輩、どうして脱いでくれないですか?」
僕は鈍感人間だからそんなことを言ったんだけど、なんというか僕のあまりの無邪気さに先輩もとうとう笑ってしまったみたいだった。そして、
「俺のことを、好きだ、と言ったら脱いでやるよ。」
と、笑うついでに言ったのだ。
「せ、先輩、僕のこと……?」
わざわざ聞き返したのだから、僕の鈍感さもやっぱり相当なものに違いない。
「そういうことになる、だろうな。」
高橋先輩は、更衣室で見た例の恥ずかしそうな笑いでごまかしながら言った。
「いつも、栗坂のことを見てたんだぞ。」
そういえば、確かに僕が高橋先輩の方を見ると、たいてい視線が合ったなあ、と僕は思った。
「しかし、昨日は本当にびっくりしたなあ。栗坂が西岡とやってるんだから……。」
「ずっと見てたんですか?」
「見てられるわけないだろ。すぐ引き返したけど後で悔しかったなあ。」
そう言って高橋先輩は僕の方に寝返ると、
「西岡のこと好きなのか?」
とまた言ったのだ。
 僕は困ってしまった。西岡のことだって、好きなことは好きだけれども、先輩の言ってるような意味で好きなわけではなかったのだ。
「一応、好きですけど……。」
僕はしどろもどろだった。
「俺とどっちが好きだ?」
人なつっこい僕のことだし、こうやって隣に寝てると高橋先輩のことを好きにならずにはいられなかったけれども、西岡と高橋先輩なんか、そもそも比べようがなかった。
「先輩のことも好きだけど、西岡は嫌いにならなきゃいけませんか?」
「俺のほうが嫌いなのか?」
どう言ったらいいのかわからなかったので、そのかわりに僕は、高橋先輩に自分の唇を突き出した。
「ごまかすのがうまいなあ……。」
とかなんとか先輩は苦笑していたみたいだったけど結局はキスをしてくれた。
 僕が練習をさぼったりするせいかもしれないけど、高橋先輩の体は、 僕よりも一回り大きくてついでに逞しかった。じっとりと汗ばんだ先輩の胸に口を付けて、舌でちょっとなめてみると塩辛い汗の味がした。
「何やってるんだ……。」
高橋先輩はまだブリーフをはいたままだったけれど、それは後のお楽しみ、ということにしておいて、次に僕は先輩の乳首を口に含んだ。
「くすぐったい。やめろよ。」
そんなふうに言いながらも、先輩も結構うれしがってるみたいだった。僕は体ごとどんどん下の方に降りていって、ついに期待の大きく盛り上がったブリーフに到着した。
「先輩……。」
何か言いたかったのだけれど、いくら僕が鈍感人間でも、その時は黙って先輩のブリーフを下げたのだ。
「へえ……。」
つやつやしたすごいものを口に含むと、汗のような味がした。思い切り気障な言い方をすれば、二人の時間は止まってしまった、なんていうことなのだろうけど、その時、僕は高橋先輩のかすかなうめき声と、窓の外から聞こえてくる子供の声なんかをかすかに聞きながら、不思議とうれしかったりした。もっとも、高橋先輩の出した量の多さには、のどが詰まりそうでちょっとうれしくなかったけれども……。
 僕はもっとそうしていたかったんだけれども、まだ時々けいれんしているものを僕の口から無理に抜くと、高橋先輩は僕を抱いていくれた。
「本当に好きなんだ、栗坂……。」
うれしかったけれど、高橋先輩のことを好きだ、とは何となく言えなかった。
「西岡とだって、友達以上のものじゃないんです。」
黙っているのは悪い気がして僕はそう弁解したのだけれど、高橋先輩は、
「うん。」
と、納得したのかどうか、あいまいにうなずいただけだった。帰る時、先輩は競泳パンツを返してくれたのだけど、その時、
「洗ってしまうのはもったいないな。俺のをやるからこれはおいて帰れよ。」
なんて言うのだ。僕は困ってしまったけれど、幸か不幸か先輩のは僕には大きすぎたので、そんなことにはならずにすんだ。