かっちゃんは、不良なんだよなあ。
「なにか言ったか、幸介?」
俺だけじゃなくて、佐々木にまで手を出すなんて……。
「まさか、俺が佐々木にちょっかいを出したなんて思ってるんじゃないだろうな。」
だって、かっちゃんじゃなきゃ、誰がそんなことをするんだよ。
「えー、だって、やけに詳しいじゃないか。」
かっちゃんは、ちょっと、むっ、としたみたいで、
「冬休みの合宿で、部長が佐々木で遊んだんだ。」
なーんだ、かっちゃんじゃなかったのか。
「部長……?」
なんとなくかっちゃんが残念そうに見えるのが、ちょっと気になったけど、
「幸介なら平気だったんだろうけど、佐々木は真面目だからなあ。」
そういう言い方はないだろ。だいたい、『佐々木で遊んだ』なんていうのは、かなり問題のある表現だと思うけど……。
「テニス部は乱れてるんだなあ。」
俺が、皮肉のつもりで言ったのに、
「テニス部なんか、全然どうってことないよ。水泳部とかバレー部なんか、もっとひどいんだぜ。」
本当かよ。
「ひどい、って……?」
もちろん、俺は、深い意味があって聞いたんじゃないんだけど、
「幸介は、助平だなあ。」
かっちゃんに感心されてしまった。
「そ、そういう意味じゃないよ。」
俺は弁解しながら、自分の言ったことの意味に今頃気がついて思わず赤面してしまう。
「このぐらいのこと、普通だぜ。」
かっちゃんの醒めた言い方に、俺は、運動部に対する認識を新たにしてしまった。
「へえ……。じゃあ、かっちゃんも、そういうことがあったんだ。」
まさかとは思ったけど、かっちゃんは、
「え?そ、それは……。」
なんて、しどろもどろで、俺は、なんだか複雑な気持ちになってしまう。かっちゃんはこういうことを、誰に教えられたんだろう。
「でも、水泳部とかの連中にしたって、せいぜい手でやるくらいだからな。」
まあ、そりゃそうだろうと思う。それ以上の行為に及んじゃったら、しゃれじゃすまないよ。
「じゃあ、俺は?」
俺とかっちゃんなんか、まだ、夕焼けの薄明るい部屋のベッドの上で、裸で抱き合ったままなんだかんだとごそごそやってるんだから、考えてみれば相当なもんなんじゃないかなあ。
「……。」
かっちゃんは、それには答えずに、俺の両腕を押さえつけるようにして俺にキスをした。たっぷりと息苦しくなるくらいのキスで、かっちゃんは、すっかり元気を取り戻してしまった俺のを、ぐっ、と握りながら、
「すぐ、こうだもんなあ。」
ちょっと意地悪な笑い方をしてみせる。だから、キスすると勃っちゃうのは自然現象なんだ。俺の唇からかっちゃんの唇が、すっ、と離れていって、
「幸介か……。そうだなあ……。」
かっちゃんが急にまじな目付きになる。
「幸介は、俺の、かわいいぬいぐるみかなあ。」
何を言うのかと思えば、こういうひどいことを平気で言うところが、かっちゃんらしいのかもしれない。
「それってさ、単に、俺の体をおもちゃにしてる、っていうだけのことじゃないの?」
かなり素朴な疑問だったりする。まあ、おもちゃにされてる俺のほうも悪いのかもしれないけど……。
「そうじゃないよ、俺は、幸介のことが好きなんだ。」
えー、いきなりそんなこと言われたら、俺、どうしていいかわからないよ。
「好き、って……?」
それで、思わず、わからないふりをしてしまったりする。
「こういうことさ……。」
キスで誤魔化すんじゃない、と声を大にして言いたいところだけど、しっかりと口封じをされているので反論することができない。
「う……、ん……。」
これでしばらくの間は、かっちゃんの思い通りにされちゃうんだから、俺は、やっぱりかっちゃんのぬいぐるみかもしれない。
「ほら……。」
俺の手に握らされたかっちゃんの元気は、堅くて熱かった。
「……。」
ぎゅう、っと抱きしめられて、かっちゃんの胸の暖かさが気持ちよかったのは、やっぱり俺もかっちゃんを好きだからなんだろうか。