それでも、さすがに期末試験を間近にひかえた高校生が不純同性交友ばっかりやってはいられないから、教科書だとか問題集だとかをごそごそ引っ張り出して、勉強してるふりをし始めた。化学のことが頭にあるから、俺は、ちゃんと勉強しなくちゃ、と思ってるんだけど、
「高校生なんて、つまらないよな。」
かっちゃんは、すぐそういう会話に俺を引きずり込んで、勉強の邪魔をしようとするのだ。
「どうして……?」
かっちゃんなんかを見てると、高校生がつまらないとは思えないけど……。
「大学生なんて、遊んでばっかりで、どう考えても俺達より馬鹿だぜ。」
大学生が馬鹿かどうか、なんていうことは、自分が大学生になってから考えることにしたいから、俺は、
「ふうん、そんなもんかなあ。」
できるだけ当たり障りのない返事で、かっちゃんの話を受け流すつもりだった。それなのに、
「きっと、こんなことばっかりやってさ……。」
かっちゃんが俺の耳たぶを、ぺろ、となめたりするもんだから、不意に体中にしびれが走って、やっと大人しくなっていた下腹部に、また、熱いかたまりが集中し始める。
「幸介は、敏感だなあ。」
かっちゃんは、俺の首筋を指で撫でながらそう言うんだけど、かっちゃんの指が首筋に触るたびに、俺の体は、びくっ、と反応してしまう。
「だって……。」
こうやって俺がポケットに手を入れて位置をなおしたりしなくちゃならないのは、かっちゃんが変なことをするからだ。
「何をごそごそやってるんだよ。」
かっちゃんはにやにやして、俺が楽な方向に修正しているのを見ている。こういうとき、かっちゃんって、本当はすごい助平なんじゃないかと思ってしまう。一見真面目そうに見えるから、学校でそう言っても誰も信じちゃくれないとは思うけど、俺は、かっちゃんの本当の姿はこっちだと思う。
「大学生だって、こんなことばっかりやってるわけじゃないだろ?」
大学生がかっちゃんみたいなのばっかりだとしたら、純情な少年の貞操はどうなっちゃうんだろう。
「でも、似たようなもんだぜ、きっと。」
それはなかなか過激なご意見じゃありませんか。
「そんなこと言ったって、大学生も、もともとは高校生だったわけだろ?」
大学生が、高校生より馬鹿だと言うのは、明日の自分の悪口を言うことなんじゃないだろうか?
「だから、大学生になったら馬鹿になるんだ。」
へえ、そうなのか。なんて、結局は、勉強を邪魔されてしまう。
「俺なんかもともと馬鹿だから、もう大学生なんだ。」
おれは、やけになって、そう言ってみる。
「大学生になった幸介なんか、想像できないなあ。」
えー、じゃあ、俺は浪人するのかなあ。なんて、冗談じゃないよ。でも、そう言われれば、例えば、二十才になったとき、俺は、どんな顔をしているんだろう。ちゃんと、大人みたいな顔をしているだろうか。二十才ぐらいならまだいいけど、三十才になった自分なんか想像してみることさえできない。
「来年のことなんか、わからないよ。」
ちょっとシニカルな俺……。
「わからないけど、俺は、幸介をずっと抱いていたい。」
なんて、いきなり俺のことを抱き寄せるかっちゃん……。
「そんなの、わからないよ。」
俺は、かっちゃんの胸の中でもぐもぐ言う。
「わからなくてもいいんだ。」
かっちゃんの声が、その大きい胸から響いてくる。かっちゃんの胸に抱かれてるような、どさくさの状況でなかったら、かっちゃんの言ってることって、なかなか滅茶苦茶な理論なんじゃないだろうか?
『俺は、ずっとかっちゃんに抱かれていたいだろうか?』
なんだかよくわからないけど、それでも、十代も終わりが見えてきて、一人で生きて行くのは割と寂しいことなんだ、ということがぼんやりとわかってきたような気がする。だから、こうやってかっちゃんのぬくもりを感じていると安心できてしまうんだろう。そんなことをぼんやり考えていたから、かっちゃんが、
「ずっと、いっしょにいられるといいな。」
と言ったとき、純粋に感情の問題として、
「うん。」
俺は、素直にうなずいていた。