ところがヤバイことはそれだけじゃなかったのだ。本当に恐ろしいことに、僕の机の上には、もちろん男の、なんだけども、ヌード写真だかなんだかが出しっぱなしになっていたというわけなのだ。
「あ……。」
見るな、と言えばよかったのかもしれないけど、やたらと僕の持ち物をひっかきまわしたがる小林のことだから、さっそく見つけてしまって、
「へえ……。」
なんて言いながら見ている。
「先輩、こんなの見るんですか?」
そういうことは僕の勝手だと思うからほうっておいてほしいと思うのだけれど……。
「うん、まあね……。」
そう言ってから僕は思わず笑ってしまった。こういうものを見るときの僕の目つきは、鏡で確かめたわけじゃないからよくわからないけれど、少なくとも『まあね』程度じゃないことだけは確かなのだ。この気まずさの原因とも言うべき『白昼の快楽』にしたって、その目つきの産物なんだ……。 僕自身はもう開き直ってるし、第一そうせざるを得ない状況だからいいんだけど、小林は僕が変なところで笑ったりしたもんだから、その意味がわからなくて、きょとんとしていた。
「ごめん。別に単なる思い出し笑いなんだ。」
ちょっと違うけど……。
「けど、小林もそんなのに興味あるの?」
まるで人ごとみたいな言い方で、ちょっとカマをかけてみたりした。
「え?!いいえ、そんなこと……。」
そんなにあわてなくてもいいと思うのだけど、興味があると白状してるみたいなものなのに。
「ただ、すごいなあ、と思って……。」
そういうのが『興味がある』のじゃなかったら、いったい誰が男のヌード写真なんか見ると思ってるのか不思議なのだが、なんといってもかわいい小林君のことだから、そのぐらいで許してやることにした。それに、なんとかして盛り上がりを隠そうとして、足を組んだりなんかしているみたいだったし……。
 雰囲気的に小林は、ベッドに男と並んで寝た場合、どういうことをすべきか、ぐらいは知っているみたいだった。と言うよりは、僕自身が、小林にそういう経験があると思い込みたかったのかもしれない。この状況は、それを確かめる絶好のチャンスだと思ったのだけれど、やっぱり小林をベッドに押し倒すだけの勇気は、残念ながら僕にはなかった。
「何か……?」
小林はいつになく照れたりして、それがまたかわいかったのだけれど……。
「おまえ、経験あるのか?」
遠回しというか、あいまいというか、それでもこれを尋ねるのに顔が赤くなってしまいそうだった。
「え?!男とですか?」
つまり、一度くらいはあるらしい。それにしても、小林は、真っ赤になっていた。
「別に、男とでもいいけど……。」
ごめん、小林君。小林は、やっと自分がからかわれているのに気づいたらしく、反撃にでてきた。
「先輩は男の方が好きなんですか?」
これは、当たっているだけに、反論のしようがない。
「こんな毛深い人がいいのか……。」
小林は例の写真を見ながら、すました顔で言った。だから、僕は、毛深い人が嫌いなわけじゃないけど、毛深くなきゃいけないわけでもない。というより、今の僕なら、小林が好きだ、と言うべきなんだろうけど……。
「欲しかったらやるぞ。」
僕は仕方なく、知らんぷりで言った。小林は聞こえなかったふりをして、今度は、ぎくっとするような台詞で応じた。
「僕は、こんなに毛深くないもんなあ……。」
これって、素直に解釈していいんだろうか。……今度は、僕が聞こえなかったふりをしてしまった。絶対、そのまま押し倒してしまうべきだったと思うんだけど、素直じゃなくて、かつ、勇気のない僕には、とても望めない行動だった。