兄貴のベッドは、兄貴の匂いがする。うつぶせになって、兄貴の日向くさい匂いを楽しんでいると、風呂上がりの背中に残った水滴がゆっくり乾いていくのがわかる。
 風呂から響いてくる水の音は、雨だれの音にも似て、快い眠りに誘ってくれるような気がする。
「今頃、兄貴は泡だらけになってるんだろうな。」
泡だらけになった兄貴の体を想像しながら、腰をちょっと浮かせて、堅くなってきたものを楽な方向に直した。
「兄貴も、風呂の中でいたずらしたりするんだろうか?」
斜め上に向けた熱い塊が、ビクッ、と脈打って、また堅くなる。
「早く出てくれないと、僕、湯冷めしちゃうよ。」
あくびをしながら兄貴を待っているとそのうちに、自分の寝息しか聞こえなくなってしまう。
 ほんの数分ほどうとうとしたとしても、その間は時間の進み方がねばっこくなっているから、何時間も眠ってしまったように錯覚することがある。
「もう眠っちゃったのか?」
あんまり近くに兄貴の顔があったから、僕は、大あくびで誤魔化す。
「なんだ、そんなに大きな口を開けてあくびして……。」
バスタオルで頭をごしごし拭いている兄貴からは、湯上がりの匂いがしている。
「待ちくたびれちゃった……。」
何を?
「眠ってたくせに。」
兄貴はやっぱり知らんふりで、僕の下半身があいかわらず、突っ張ってることなんかに気付こうとはしてくれない。
「だって、兄貴が長風呂なんだもん……。」
せいぜい僕の不満そうな表情に、苦笑してみせるぐらいのところだ。
 でも、僕は、兄貴の枕に顔を埋めながらずっと待ってるんだ。
「毛布ぐらいかぶってないと風邪を引いちゃうぞ。」
兄貴の温かい手で頭を撫でてもらうのを。
「ほら、こんなに冷たくなっちゃって……。」
兄貴に毛布をかぶせてもらうのを。
「クシュン。」
「馬鹿だなあ、風邪引いちゃって……。だいじょうぶか?」
まだ湯上がりのほてりの残っている兄貴の体の温かさを。
「こっちを向けよ……。暖めてやるから。」
愛撫のための、ぎこちない言い訳を。
「もっとこっちに寄れよ……。」
兄貴の柔らかいキスを。そして、兄貴の胸の暖かさを……。
「久しぶりだからな。今晩は、ずっと寝かせてやらないぞ。」
兄貴の……。
 兄貴の唇が僕の路の上を動くたびに、僕の背筋に衝撃が残る。
「駄目だよ、そんなところ……。」
思わず息が弾んでしまいそうになるのを押さえるので精一杯だから、
「じゃあ、このへんならいいんだろう?」
兄貴の熱い舌が首から胸へ移動していくのをどうすることもできない。
「……。」
体が勝手にのけぞっちゃって、声が出てしまいそうになる。
「ここは……どうだ?」
兄貴の唇を期待して堅くなっている乳首に兄貴の荒い息がかかり、
「うっ……。」
僕の意志にはおかまいなく、全身がけいれんしてしまう。
「感じるか?」
乳首なんか、感じないはずなのに、なめられたり、指でつまんだりされると下半身が熱くなってくる。
 僕の体って、どうしてこんなに淫乱なんだろう。
「あっ……。」
兄貴の舌がみぞおちをなめただけなのに、思わず声を出してしまったりする。たまらなくなって、ビクッと下腹部に力を入れると、さっきから勃ちっぱなしのものに、じわっと粘液のにじむ感覚がある。まだ、なんにもされていないのに、べとべとになっちゃうなんて恥ずかしい……。
「ふうっ……。」
それなのに、兄貴の舌は、へその手前までで僕の唇に逆戻りしてしまうのだ。
「……。」
兄貴の舌に僕の舌を絡められるのもいいけど、でも、やっぱり、そのまま、……やって欲しかった。こんなにもどかしくて、どうしようもないのに、兄貴は、僕のを握ってさえくれない。
「気持ちいいか?」
兄貴が僕の背中に回した手で腰のあたりをくすぐるから、僕は空虚しく勃ったままなのだ。
 僕はもう、どうしようもなくなって、自分の下腹部に手を伸ばしてしまう。待ちくたびれて、こんなにぬるぬるになっちゃってるのに……。
「こら……。」
自分のせいなのに、兄貴は、邪慳に僕の手を払いのけてしまうのだ。
「すぐ悪さをするんだから……。こいつでも握ってろ。」
兄貴の熱い塊も、なめらかな粘液があふれ出していて、掌に快かった。
「そんなにやって欲しいか?」
わかってるくせに、兄貴は、そう言って僕の太腿を撫でながら僕を見つめる。
「僕、もう……。」
ビクン、ビクンと力を込めてみても、なんの刺激も得られない。仕方なく、僕は、握らされている兄貴のかちんかちんに堅くなったのをぬるぬると刺激して催促する。
「こうされたいんだろう?」
兄貴の荒い息がかかったと思うと、僕は、
「う……ん。」
なま暖かいものに根元まで、ぬるっと吸い込まれてしまった。