結局、その日は啓ちゃんのところに泊めてもらった。
「入れよ。」
入り口のところでためらっている僕を見て、啓ちゃんはちょっと笑っていった。
「勝手知ったる、だろ?遠慮することないさ。」
別に遠慮してるってわけじゃないけど、やっぱり啓ちゃんの『まあまあ』つき合ってる相手だとか、将弘のことだとかが気になって……。
「いつまでもここに突っ立ってるわけにはいかないだろ……?」
僕は、ぐい、と手首を引っぱられて、『よっこらしょ』なんて、抱え上げられるとそのままベッドの上に放り出されてしまった。
「乱暴だなあ……。」
と僕は言ったけど、啓ちゃんは玄関の鍵をかけに行ってたから、聞こえなかっただろうなあ。この台詞って、昔僕がよくはいてたんだけど……。
 部屋の様子もあんまり変わってないなあ、と僕があたりを見回していると、啓ちゃんの体が僕の体の上にどさっと投げ出されてきて、思いっきり唇を吸い上げられてしまった。
「久しぶりだなあ。」
思う存分、僕の舌だか唇だかをこねまわしてから顔を上げると、まじまじと僕を見つめてから啓ちゃんはそう言った。そして、僕の手を取ると、
「こいつを憶えてるか?」
と、堅く突っ張ったズボンのその部分へ持っていった。久しぶりなもんだから、僕も根元から先の方まで探って、その懐かしい堅さを楽しんでいた。啓ちゃんの手が僕のズボンのベルトをくぐろうとしているから、腹をぐっとくぼませて協力すると、するっと啓ちゃんの手が潜り込んできて、僕のは暖かい啓ちゃんの掌に包み込まれた。
「前よりでかくなんったんじゃないのか、知?」
「そうかなあ……。」
ぎゅっと握られたものだから、思わずピクンと力を入れてしまった。
 啓ちゃんは、昔と同じに乱暴なやり方で、僕を裸にしてしまうと、
「知の泣いて喜ぶのは……。」
なんて言って、僕の腋の下へ顔を突っ込んでくるのだ。
「あ、駄目……。」
まだ将弘にだってひた隠しにしている僕の弱点なのだ。啓ちゃんの舌の感じは、もう何回も過去に経験してるのに、僕は思わず身をよじって悶えることになってしまった。
「こうやっても、知はいいんだよな。」
いちいち言わなくてもいいのに、どうせ僕はそれに同意したりするどころじゃないんだから。それに、変に柔らかくてそのくせ弾力性のあるなま暖かい啓ちゃんの舌で脇腹をずるっとなめたりされて、平然としていられる人なんかいないと思うんだけど、僕が思わず、ほんのちょっとなんだけど、声をあげてしまったりしたら、
「相変わらず、知は淫乱だなあ。」
なんて言うのだ。僕が『泣いて喜ぶ』ところをなめたりして、声をあげなきゃ仕方ないようにし向けたくせに、そんな言い方はないんじゃないかなあ。
 それから啓ちゃんは、僕の胸にまたがるようにすると、上を向いて反り返っているものを自分でちょっと弾いてみせた。そして、
「前は、こいつでよくむせてたなあ、知。」
とうれしそうな顔をして言うと、啓ちゃんは、そいつを僕の口のところに突き出してきた。
「……。」
先のところが何となく引きつれたような感じで、裏側から見ると割と見飽きない眺めなんだなあ、なんて感心した。
「なんだ、物欲しそうに口を開けたりして……。」
まさかよだれは出てなかったと思うけど、確かに、僕の口は半開きくらいにはなってたかもしれない。
「そんなに欲しけりゃ……。」
啓ちゃんはひざで立ち上がると、僕の口めがけて、その反り返ったものをぐっと突っ込んできた。だから、僕の口は、啓ちゃんのでいっぱいになってしまったんだけど、将弘のただがむしゃらに固いのとは違って、何となくなめていると味があるような感じがした。もちろん将弘のだって、汗の味はするんだけど、啓ちゃんのは形がいいから舌になじんだりするのかなあ。そんなに大きいっていうわけじゃないけど、啓ちゃんのほうが舌触りがいいみたいな感じがする。
 僕が一生懸命なめているというのに、啓ちゃんは僕の口の感触を納得すると、さっさと引き抜いてしまった。
「あーあ。」
僕の唾液に濡れててかっているものを見ながら、僕は思わずため息をついてしまったりした。でもそんな僕に啓ちゃんは苦笑しただけで、
「なんだ、そんな不満そうな顔して……。」
なんて言うと、僕にのしかかってきた。そして、二本重ねてつかんだ啓ちゃんの手がごりごりと動き始めたところをみると、どうやら僕の口は、啓ちゃんのを適当にぬめらせるためだけに使われたらしい。僕はそれがちょっと不満だったけど、その二本重ねのマッサージの気持ちよさに免じて、許してやることにした。もっとも、相手が啓ちゃんなら、僕の抗議なんか『ごまめの歯ぎしり』以下のものなんだけど。
「知……!」
啓ちゃんは僕の口を自分の唇でふさぐと、急に手の動きを早めた。そして、
「あ……、あ……。」
かなんか言って、啓ちゃんのがビクビクと動くのを自分のものに直接感じたら、ぼくも、ビクビクとなってしまった。大きなため息をつくと、汗だかもっとねばねばしたものだかで、下腹部がべとべとなのもそのままに、啓ちゃんは僕に体重を預けてしまったけど、ぼくには、べとべとなのも啓ちゃんの体が重いのも、かえって気持ち良かった。
 しばらくして、後始末をしてしまって、啓ちゃんは僕に腕枕をしてくれながら、
「知と別れたのは失敗だったかなあ……。」
なんて、例のおどけた表情をしてみせるのだ。
「え?!」
急に変なことを言い出すもんだから、僕は思わず変な声を出してしまった。そしたら啓ちゃんは、
「知とやると、誰とやってるときよりも気持ちいいからなあ。」
と言って、憎らしくも大あくびをするのだ。
「でも、また前と同じことだよ。お互い疲れちゃって……。」
まさか本気じゃないと思っていたけど、僕はそう言ってけん制してみた。
「そりゃそうだろうなあ。……同じことになるんなら、違った相手のほうがましだよな。」
啓ちゃんも僕と似たようなことを考えていたのか、そう言って笑った。
「でも、しつこいようだけど、俺は知を嫌いになったんじゃなかったんだぞ。今だって好きなんだからな。」
僕は啓ちゃんの胸に抱かれながら、
「僕だって啓ちゃんのこと好きだよ。」
と啓ちゃんには聞こえないぐらいの声でつぶやいていた。