先に風呂から上がった僕がちょっとごそごそしてからベッドに入ろうとしたら、もう将弘が風呂から上がってきた。
「本当に洗った?」
どうしてこんなに短い時間で風呂に入れるのか不思議だった。
「あんまりつかってるのは好きじゃないからな。」
上気したほおが色っぽいなあ、なんて僕が将弘をみてると、
「何じろじろ見てるんだよ。早く寝ようぜ。」
すけべな将弘は僕にそういう催促をするのだ。それで、
「眠いなあ、きのうは睡眠不足だから……。」
と僕が大あくびをしてみせると、将弘は僕をじろっとにらんで、ついでに僕の頭をちょっと突っついた。
 僕が寝てるのはセミダブルのベッドだけど、体格のいい将弘とだとさすがにちょっとせまい感じがする。
「久しぶりだな。」
そう言えば、啓ちゃんとほどではないにしても、将弘と同じベッドで寝るのは久しぶりだった。
「可愛いよ、知。」
僕はちょっといたずら心を起こして、
「浮気の相手にも、そう言ってるんだろ?」
と言ってやった。将弘はちょっと気を悪くしたみたいだったけど、たまには浮気の反省をさせておかなくちゃ。
「うるさいな。」
自分に似合わないお世辞を言う将弘が悪いと思うんだけど、僕は強引にしゃべれなくされてしまった。でも、それと同時に、将弘もしゃべれなくなるわけだから、僕だけが不利になるわけじゃないのだ。それに、本当を言うと、僕はこの将弘のこね回すような乱暴な舌の動きが好きだったりして。時には舌を噛まれたりしてちょっと痛いけど、我ながら恐ろしいことに、その伊丹も一種の快感だったりする。
 僕と将弘は、いつの間にか互い違いになっていて、お互いに相手のパジャマに手をかけていた。僕のパジャマがブリーフといっしょにずらされるのを腰をひねるようにして持ち上げて協力しながら、僕も、将弘のパジャマをトランクスごと、勃起したものが絡まっているのも気にせずにずらしてしまった。見るからにごつごつと堅そうなものに僕が見とれていると、さっきから自由になっている僕の勃起したものが、将弘に舌で愛撫されるのを感じて、僕は思わずピクンとそこに力を入れてしまった。僕は下半身からあふれ出してくる快感に溺れそうになりながら、将弘の下半身へ自分の顔を近づけていった。
 啓ちゃんにはなかったごつごつした舌触りがあって、啓ちゃんの柔らかさと対照的な歯ごたえがあった。もちろん実際にちょっと噛んでみたりもしたんだけど……。
 下半身からは絶え間なく快感がこみ上げてくるんだけど、口の中で堅くなった将弘があばれているのもそれとは違った意味で快感なことを発見したりした。なんだか、上半身と下半身が分離してしまったみたいだ。
「も、もう、いきそう……!」
腰を突き出して、僕の口の中にありったけ出してしまうと、将弘はあっけらかんとしたものだった。
「あー、気持ちよかった。」
そう言って、ちょこちょことティッシュペーパーであたりを拭くと、そそくさとパジャマを着て、どでんとひっくり返ってしまうのだ。僕も、相手が将弘の時はそんなふうで、後始末をしてやったりもしないし、将弘が、
「もう一回風呂に入ってこよう。」
なんて言っても、
「勝手にしろよ。」
という調子なのだ。それに、すやすやと寝息を立ててるときでも、僕は将弘に腕枕をしてもらったこともないし、してやったこともない。どちらかというと、かなりドライな関係なのかもしれない。でも、そうやって相手に執着がないから、もしくはお互いにそんなふりをしてるから、浮気もやり放題なのかもしれない。そのくせ、相手の浮気が許せなくて、嫉妬し合ったりして、結構矛盾してるんだなあ。
 今日は珍しく並んで寝てるときに将弘がじゃれてきた。それが偶然、僕の弱点の脇腹だったので、僕は努めてポーカーフェイスを装って、弱点であることを将弘に悟られないようにしなければならなかった。
「うるさいなあ、僕、きのうはあんまり寝てないから、眠いって言ったろ?寝かせてくれよ。」
そうしたら将弘は、
「浮気して眠いのなんか言い訳になるもんか。そうだ……。」
しばらくは浮気できないように、なんて言って、将弘は僕の胸にキスマークをつけようとするのだ。
「や、やめろよ、困るよ……。」
といいながらも、僕はちょっぴりうれしかったりした。たまには『愛情』の確認をするのも悪くないな、と思ったのだ。でも、将弘の口はだんだん下腹部の方へ移っていってしまって、どうやら僕は、二日連続の睡眠不足を我慢しなければならなくなりそうだった。