高橋先輩が真面目な顔でそういうので、僕はてっきりこのまま無罪放免になるんだと喜んでいたのだけれど、
「その代わり……。」
と言う先輩の声に、自分が甘かったことを悟った。
「俺の言うとおりにするんだぞ。」
「そんな……。」
僕は、泣き落としに出ようとしたのだけれど、高橋先輩は僕が見たことないほど冷たい顔つきで、どうやら僕には選択の余地はなさそうだった。高橋先輩はベッドに腰を降ろしていて、僕のほうをじっと見ていたけれど、僕があきらめてうなずくと、
「服を脱げ……。」
と言った。仕方なく僕は服を脱いでいったけど、その間ずっと、先輩は僕の動作を真面目な顔をして見ていた。僕は本当に恥ずかしかったのだけれども、どういうわけか、体のほうはもっと恥ずかしい状態になってしまった。
「全部脱げ。」
普通の状態じゃないものに引っかかったりなんかして困ってしまったけど、結局、僕は裸になってしまった。
本当のことを言うと、僕は、高橋先輩がいったいどういうつもりなのかよくわからなかったのだ。もちろん先輩なんだから練習では毎日会っているけど、そんなによく話をするわけでもなかったし、どちらかというと高橋先輩とはほかの先輩とよりも話をすることが少なかった。それに、僕が失敗したりなんかするとたいていそれを見られていたりして、高橋先輩は苦手な方だったのだ。それなのに、どうして僕が裸にされるだろう。と、別に嫌じゃなかったけど不思議だったのだ。
「栗坂、おまえ、一人Hのとき何を考えてる?」
「え?そんなこと言われても……。」
急にそんなことを尋ねられても困ってしまうのだ。実際の話、僕がオナる時は特別な対象があるわけじゃなくて、気持ちがいいということのためにゃってる、という感じだったので、僕は答えようがなかった。それで、僕はさっきから大きくなったままの下腹部を両手で押さえた、何となく中途半端な格好で、あー、とか、うー、とかごまかしていた。
そしたら、急に高橋先輩は僕の方へ来て、僕の首に腕を巻き付けるとぐっと迫ってきたのだ、キスされる、と思ったんだけど、今さらどうしようもなくて、僕は素直に先輩の舌を受け入れていた。一応は抵抗を感じたりなんかもしたんだけども、その抵抗感も僕が手で隠していたものの充血には効果がなかったみたいで、先輩に抱かれるような感じでベッドに倒れ込んだ時も、僕の下腹部は突っ張ったままだった。高橋先輩は服を着たままだったので、敏感な部分が先輩の服にこすられて、ちょっと痛かったりなんかした。
「栗坂、いつも西岡にあんなふうにしてやっているのか?」
実際、その質問は、体をあちこち触られながら聞くにはふさわしくなかったのだけれども、もっとふさわしくないことに、高橋先輩は相変わらず真面目な口調だったのだ。
「そんなことはないですよ。昨日は特別で、あんなことしたのはあれが初めてです……。」
あのときの感触を思い出して、僕は下腹部がずきんとなってしまったんだけれども、どちらかというと、それは、高橋先輩がぐっと握ったせいかもしれない。
「西岡のことが好きなのか?」
これだから僕は『鈍感人間』なんて言われるのだろうけど、その時は、高橋先輩がどうしてそんなことまで聞くのかよくわからなかった。それに、これは言い訳なんだけれども、その時、僕はあれをされている最中だったりしたのだ……。