次の日、僕が練習で疲れた体をプールから、なんとか引き上げるとプールサイドにもう着替えた高橋先輩が立っていて、
「栗坂、今日は珍しく真面目にやっていたなあ、何かあったのか?」
なんて言って僕に笑った。
「恐い先輩がいますから……。」
と僕は言い返したのだけれど、高橋先輩は、全然気にもとめなかったようで、
「また気が向いたら、恐い先輩の部屋へ来いよ、待ってるから……。」
と言ってまた笑った。
「夜中でもいいですか?」
僕が冗談で言うと、高橋先輩はニヤッとして、
「そのかわり帰れなくなるぞ。」
なんて言って、僕の肩を叩いた。僕は、
「のぞかないでくださいよ。先輩は前歴があるんだから……。」
と言って、更衣室へ逃げ込んだ。
更衣室では着替えていた西岡に、
「先輩と何話してたんだ?」
と聞かれたのだけれども、僕は
「うん、ちょっとフォームのことで……。」
なんて適当にごまかしてしまった。
「それより……。」
僕は体を拭いていたタオルの手を休めて、ほかの奴らに聞こえないようにちょっと声を落として、
「今から僕の部屋に来ないか。」
と西岡を誘った。
「いいけど、何かあるのか?」
わかっているくせに、そんなふうに言いながら、西岡は僕にウインクして見せた。そして、僕は僕で、西岡が帰ってからだと、高橋先輩のところに行くのは本当に真夜中になるなあ、なんてことを考えている自分にびっくりしたりなんかしていたのだ。やっぱり僕は、自分で思っていたよりも浮気性なのかもしれない。