はっと、目が覚めると、目の前に彼の顔があった。
「どうした、悪い夢でも見たか?」
夢を見て目が覚めたのか、よくわからないけれども、彼がちょっと微笑ってくれるとそれだけでうれしかった。だから、
「ううん、なんでもない。」
僕は、暖かい彼の胸に顔をつけて、彼が僕の頭をそっと撫でてくれるのを待った。今の僕にとって、彼の腕の中でいるということだけが現実だった。彼の腕の中でなら、僕は、かわいい子羊にも逞しい狼にもなれる。もっとも、逞しい狼になってみるのは、なかなかたいへんだと思うけど。
「何を笑ってるんだ。」
つい笑ってしまうのは、やっぱり僕の照れだろうか。
「僕って、子羊かなあ。」
彼を試すようなつもりで、そんなことを口にしてみる。
「……。」
だけど、彼は微笑って答えてくれない。
そのかわりに、彼の手が僕の体を回って、なんだかごそごそやっている。
「エアコンをかけてるから、ちゃんとタオルケットを掛けていないと、風邪を引いちゃうぞ。」
どうやら、僕の体が、ちゃんとタオルケットに包まれているかどうかを確かめてくれていたらしい。
「大じょうぶだよ。」
僕が、くすくす笑うと、
「そんなこと言って、本当に風邪をひいちゃってもしらないぞ。」
彼は、『子羊』を諭すように言う。
「そうしたら、看病してもらう。」
僕のたわ言も、彼の耳には届かなくて、
「ほら、もっと俺の方に来いよ。」
結局、僕は彼の胸に引き寄せられてしまう。
『これじゃあ、タオルケットどころじゃないよなあ。』
彼の腕にすっぽり包み込まれて、僕はそんなことを思いながら、また、ゆっくりと眠りに落ちていった。