その日は、いっしょに仕事をしている後輩達に、
「今日は、なんだかうれしそうですねえ。」
と言われてしまった。
「そんなことないよ。」
と、一応は否定しても、否定しきれないものがあるのを自分自身でも感じていた。なんて言ったって、今日は、部屋に帰れば、彼がいるんだから、仕事なんか、ほとんど手につかなくて、しょっちゅう壁の時計をながめては、
『今頃、彼は俺の部屋でどうしているのかなあ。』
と微笑ったり、苦笑ったりしてしまう。今朝、俺が出かけるとき、彼はまだ完全に眠っていて、俺がネクタイを結びながら、
「じゃあ、行ってくるからな。大人しくしてるんだぞ。」
と言っても、
「うーん。」
全然目を覚まそうという気配さえなかった。かろうじて、
「行ってらっしゃい。」
なんて、ほとんど寝言で言っていたくらいのところだ。
『しょうがないなあ。』
それでも、俺は、彼の寝顔を思い出しては、微笑いをかみ殺していた。
本当に長かったような、それでいて短かったような一日が終わって、
「じゃあ、今日は俺はこれでずらかるからな。」
時計の針が定時を指すのを待ちかねて、
「えー、やっぱり何かあるんでしょう。」
なんていう後輩達の声を置き去りにして、大急ぎで俺は部屋に帰った。鍵を開けるのももどかしい感じで部屋に入ると、ペンギンランプの近くには、彼の気配はなかった。靴はあるから、いるには違いないが……。俺は、なんだか、恐る恐るでベッドルームに入ってみる。
「あ、お帰りなさい。」
そして、俺は、彼が、ぼさぼさの髪でベッドに起きあがって伸びをしているのを見つけて、あきれると言うよりも、微笑ましくなってしまう。
「何だ、まだ寝てたのか?」
彼の、まだ寝ぼけている顔は、たまらなくかわいい。
今朝、俺が出かける時は、昨夜の名残で裸だったのに、いつのまにか、Tシャツは着ている。
『じゃあ、下半身はどうなんだろう。』
俺はベッドに近寄ると、彼が不審そうな顔で見ているのを無視して、ゆっくりとタオルケットをはいでみる。タオルケットの下から現れた彼の下半身は、俺のスウェットに包まれていた。
「……。」
俺は、何も言わなかったけれども、彼は俺の意図が十分にわかったらしく、
「いやらしいなあ……。」
あきれたような口調で言う。彼のその言葉は無視して、
「ずっと眠ってたのか?」
と言うと、
「ううん。」
彼は首を横に振った。
「昼頃に起きて、買い物に行って、適当に食って、CD聞きながら、ベッドで横になっているうちに、また眠っちゃって……。」
本当によく寝るやつだ。
「だって、昨日の夜も、なかなか眠らせてくれなかったし……。」
俺のせいみたいに言うところがかわいくないが、それはまあ、追求しないことにする。
ベッドに腰をかけた彼の隣に、俺も並んで座って、さり気なく彼のひざに手をかける。
「やっぱり、独りでいるとなんだか寂しくて……。タオルケットにくるまっていると、抱いてもらっているみたいで、安心できるような気がするから……。」
時々、本当に、『これは演技なんじゃないか』と思わせるくらい狙ったような台詞を言うので、俺は、まじまじと彼の顔を見つめてしまう。
「かわいいな……。」
俺がそう言うと、彼は、ちょっとうつむいて何も言わない。そして、俺の手が、スウェットの上を股間に向かって移動しても、彼は何も言わない。その表情が、ひょっとしたら、嫌がっているんじゃないか、と思わせるものがあるのも、逆に俺を刺激する。
「あっ……。」
スウェットの布越しに、堅く、熱くなったものをつかまれて、初めて、彼は小さく声を上げた。どうやら、この感触は、スウェットの下には、何も着ていないらしい。
「下は何もはいてないのか?」
俺が尋ねると、彼は小さくうなずく。
「これで買い物に行ってきたのか?」
スウェットの下には何もはかずに出歩いていて、しかも、それを俺以外の奴が目撃していたなんて、そう考えるとなんだかもったいない気がする。
「だって……、外から見ただけじゃわからないよ。」
じゃあ、これから俺といっしょに外に出るときは、スウェットの下には何もはかせないことにしよう。
「……。」
俺が黙ったまま、にやついていると、彼は急いで言う。
「嫌だよ、そんな変態みたいなこと……。」
その彼の真剣な拒否に、俺は、思わず笑ってしまう。