―だったら、いったい何をそんなに考え込んでるんだよ。
―え?!
―俺の浮気についてでもなけりゃ、おまえの浮気でもない。俺に関することで、おまえが心配することなんて言ったら、他にいったい何がある?
―まだ、それにこだわってるの?そんなにいつまでもいじいじやってると、胃かいようにでもなるのがオチだよ。
―もし、俺が胃かいようになったら、おまえのせいだからな。
―わかったよ。兄貴が胃かいようになったら、僕が看病してやるよ。
―おまえの看病じゃ、治るものも治らないような気がするなあ。
―ふうん、そんな言い方するのか。わかったよ……。
―おい……。
―……。
―こら……。
―あのねえ。
―うん。
―今さら改めて言うほど、たいしたことじゃないんだ……。
―それで……。
―僕は、まだまだガキなんだなあ、って思って……。
―ガキ?
―兄貴も、いつも言ってるじゃないか、僕のことを、ガキだガキだ、って……。
―あれは、冗談だろ?
―それはわかってるけど……。僕が自分で、ガキなんだなあ、って思うんだ。
―どういうことだよ。
―食事に行ったって、いつも僕がおごってもらうばっかりでさ。
―なんだ、そんなこと気にしてるのか?仕方ないじゃないか、おまえはまだ学生なんだから。おまえだって、自分で言ってるだろ、貧乏学生って……。おまえなんかに金を出してもらわなくったって、俺は、十分、だいじょうぶなんだから。
―一事が万事っていうやつだよ。
―何を馬鹿なこと言ってるんだ。俺と対等に渡り合おうなんて、十年早いぞ。
―対等なんて思ってるわけじゃないよ。せめてハンディキャップを……。
―そういうのを、背伸び、って言うの!おまえはまだ二十歳だろ?
―違うよ、このあいだ二十一歳になったところだよ。
―大した違いはないじゃないか……。おまえはまだ、二十歳のガキでいいんだ。
―そうかなあ。
―だいたい、おまえは、自分で思ってるよりずっとガキだぞ。
―どういうふうに?
―俺の腕枕がなきゃ『眠れない』んだろ?
―……うん。
―かわいいな。
―本当?
―ガキだから、かわいいんだぞ。
―はあい。

兄貴の目、不思議に優しい眼差しの目。兄貴の耳、僕の愚痴なんか少しも気にしてくれない耳。兄貴の息、僕とは別の胸に吸い込まれていく息。