―ただいま。
―お帰り、えらく早かったけど、ちゃんと仕事してきた?
―当たり前だろ。おまえ独りにしとくと、ろくなことないと思って、大急ぎで飛んで帰ってきたんだ。
―そんなに急ぐことなかったのに……。
―そんなこといっていいのか?おまえがたいくつしてため息ついてるのが、ドアの外まで聞こえてきてたぞ。
―え?本当?
―ほら、やっぱり退屈してたんだろ?おまえも素直じゃないんだから……。
―……上着ぐらい脱いでからにすればいいのに。
―おいしかった、って言ってごらん。
―だって、煙草の味しかしないもん……。
―……まったく、おまえにはかなわないなあ。
―コーヒーでもいれようか?
―ありがとう。
―インスタントしかなくて悪いけど……。
―悪かったな、インスタントしか置いてなくて。ドリップなんか、手間がかかるばっかりだろ?
―でも、インスタントよりは、ましな味がすると思うけどなあ……。
―うるさいやつだなあ。どうせおまえは、砂糖を山盛りに入れて飲むんだから、たいして変わりないだろ?
―……。
―今度はどうだった?
―おいしかった、コーヒーの味が……。
―こいつ。素直に言うまで離してやらないぞ。
―あ、駄目……。
―体のほうは、こんなに素直なのに、おまえはすぐ強がるんだから。
―嫌だなあ、そんな露骨な言い方して……。
―おまえも、たまにはよがってみろよ。『いい』とか、なんとか……。
―『いい』……?
―俺の声まで真似しなくていいんだ。
―ああ、いい、うえお、なあんて……。
―こいつ、ふざけやがって!……よし、もうこうなったら強姦だ。
―痛っ……。
―少しぐらい痛いのは、我慢しろ。
―服が破れるよ。
―そのほうが強姦らしくていいじゃないか。
―いやだ、やめて……。
―やめない。おまえが悪いんだからな、このかわいい唇が……。

兄貴の腕、僕に腕枕をしてくれる腕。兄貴の腕、僕を押さえつけて身動きできないようにしてしまう逞しい腕。兄貴の腕、僕を抱き締めてくれる腕。