Dreaming 僕

火曜日, 4月 29, 1997

 口に出して、尋ねてみても仕方のないこと、ってあると思う。それでも、それがわかっていても、どうしても質問してしまう。
「僕って、重い?」
彼の答えが肯定でも否定でも、僕にとって、いったいどんな意味を持つというのか。例によってロッキングチェアでわけのわからない本を読んでいた彼は、ちら、と僕の方に目を上げると、ふっ、と意味深な苦笑をした。僕は、彼に『重い』と言って欲しいのか。それとも、単に、彼のキスでこの生意気な口を閉ざして欲しいだけなのか。
『おまえのルールでゲームはしないよ。』
まるでそう言うかのように、彼は、僕の両肩を押して、僕をベッドに押し倒すと、乱暴に唇を重ねてくる。そんな場面を想像して、僕は、思わず赤面してしまった。
「……。」
彼は、ゆっくりと、手にしていた本を閉じると、僕に向かって、
「どうしたんだ、いきなり。」
もう一度、苦笑して見せた。僕は、すっかり見透かされたような気になって、
「ううん、何でもない。」
と顔を伏せた。
「何だよ、怪しいなあ。」
彼が近寄ってくる気配がして、僕は、思わず目を閉じてしまう。
「こう、……か?」
彼の指が僕のあごにかかって、僕の唇は、ゆっくりと彼の唇でふさがれた。
「うっ……。」
それは、僕の想像していたような乱暴なキスではなかったけれども、僕に対する効果は充分だった。
「あっ……。」
僕の体を、ぎゅうっ、と抱きしめる彼の腕は、僕にとって、何よりも強い拘束具だった。
『こうやって、僕は、どんどん彼に巻き込まれていく。』
うなじにかかる彼の熱い息に、僕は、
「ああっ……。」
どうしようもない吐息をもらすしかなかった。
 けれども、例えば、僕のことが、すべて彼に見透かされている、と思うのは、単なる僕の幻想か、それとも願望に過ぎないんだろうな、と考えさせれることもある。
「おまえは、俺のものだからな。」
という台詞が、僕にとっては、そう言われてうれしい気持ちと同じくらい、いらいらさせられる台詞だということを、彼は僕の目の中に見るだろうか?それとも、彼は、そんな僕のいらだちを楽しんでいるだろうか。
「おまえと話すと疲れるよ。」
突然、真面目な表情になって、そんなことを言うので、僕がとまどっていると、
「二つの会話を並行して進めているようなもんだからな。」
眉を上げて、僕のことを、ちら、と見る。
「え?」
僕がまだ、彼の言葉の意味を理解できずにいると、
「おまえの場合は、行間にも意味を詰め込んでいるから、それを解読するのが大変だもんな。」
僕は、不意をつかれた気がして、一瞬、自分が本当に無防備な状態になるのがわかった。今までに、こんなことを僕に言った人がいただろうか?
「もうそろそろ、いい加減に、俺には素直になれよ。」
なかなか鋭いところをついてくるけれども、
「別に、責任を取ってもらおうなんて、思ってるわけじゃないよ。」
僕がこういう台詞を吐いてしまうのは、彼がほんの少し、僕の押し方を間違えているからだろう。
「そりゃ、そうだよな。」
彼は、きっと、僕の台詞を、僕のかたくなな心というプリズムを通して見るだろう。
「じゃ、いいよ。」
だから、僕は、するり、と彼の指の間から逃げ出してしまっているのだ。