Dreaming 僕

火曜日, 4月 29, 1997

 オリーブ油に浸かっているような眠りから、僕はゆっくりと目が醒めていった。
「ん……。」
部屋のカーテンは、大きく開かれていて、まぶしいくらいの光があふれている。陽の当たり具合からすると、どうやら、もうお昼が近いようだ。
「あれ……?」
僕の隣に眠っているはずの彼の姿はなく、部屋の中にも見あたらなかった。
「どうしちゃったんだろう……。」
何となく不安になって、僕は彼を探しに行くべく、ベッドから抜け出そうとしたけれども、昨日の夜の名残で、裸のままで眠っていたから、まず、トランクスを探すことから始める必要があった。タオルケットを、裏返してみたりしたあげく、やっと、ベッドの下に落ちているトランクスを見つけてそれをはいた。
「ま、これでいいか。」
とりあえず、トランクスだけでもはいてりゃ、言い訳はできる。
 そして、上半身は裸のままでベッドルームの外に出ようとしたときに、彼がドアから入って来て、僕は、ちょうど彼に抱かれるような格好になってしまった。
「あ……。」
彼は、僕の体を、ぎゅう、っと抱き締めて、
「どうしたんだ?」
と、僕の耳元でささやいた。僕は、彼の腕から逃れようと身体をよじりながら、
「ち、ちょっと……。」
何気ないふりを装ったけれども、内心では、
『よかった、いたんだ……。』
なんだか、ホッ、としていた。彼は、僕をがっしり抱き寄せたまま、
「もっとゆっくり眠っていてもよかったんだぞ。」
もう一度、僕の耳元でささやいた。
『ひょっとしたら、見捨てられちゃったかと思った……。』
でも、なんだか照れくさくて、正直に言うことはできなかった。
 久しぶりに、彼の作ってくれた遅い朝食を食べながら、僕は、なんだかすごくのんびりした気分だった。
「……。」
もちろん、今日から夏休み、というせいもあるかもしれないけど。それなのに、ニコニコしている僕を見て、彼は、
「やけにうれしそうだな。そんなに俺の作った朝飯がうまいのか?」
と、恐ろしく見当違いのことを言った。
「ううん、そんなんじゃないよ。」
ふと、僕は、『ホワイトピッピ』のマスターの、
『好きでいることが大切なのよ。』
という台詞を思い出していた。それで、僕は、今度は正直に、
「さっき、目が覚めたときに、いなかったから、僕のこと見捨てて、先に出かけちゃったのかと思って……。」
彼のいれてくれたハーブだかなんだかの匂いのするお茶をすすりながら、そうつぶやいてみた。すると、彼は、いきなり席を立って、テーブルを回り込んで、僕の肩に手を置くと、
「俺が、おまえを置いていったりすることができるわけがないじゃないか。」
心の中まで見透すような目つきで、僕を見ながら言った。
「うん……。」
彼の顔が近づいてきたので、僕は素直に目を閉じた。むさぼるように僕の唇を奪った後で、彼は、
「……本当に好きだよ。」
そういってから、また、ゆっくりと僕の唇を塞いだ。
「……。」
素直に彼の唇を受け入れながら、僕は、
『僕は、彼のことが、好きなんだ。』
と、改めて思っていた。
 でも、そんなふうに感傷に浸っている僕を突き離すように、彼は、すっ、と僕から離れて行った。
「じゃ、そろそろ出かけるか。」
うーん、このあっさりさ加減というか、冷たさというか、僕はちょっと苦笑ってしまいながらも、そんなところも含めて、彼のことを好きなんだ、と妙な感慨にふけっていた。
「でも、シャワーも浴びたいなあ……。」
せっかくだから、もっとすっきりして出かけたい。
「遊ばないで、さっさと出てこいよ。」
相変わらず、彼は、僕のことをそんなふうに言う。シャワーでいやらしいことをするのは、僕じゃなくて彼なのに……。
「……。」
僕が、ちょっと口をとがらせてシャワーを浴びに行こうとすると、彼は、素早く僕のその唇に軽いキスをして、
「待ってるからな。」
といった。その声を聞いて、僕は変なことを想像してしまって、トランクスの前を押さえるようにして、大急ぎでバスルームに駆け込んだ。