栗坂知のページ

「僕の場合、セックスは体じゃないよなあ。」
「そうやって、すぐ、かわいいふりをするんだから。」
「えー、だって、体だけなんてつまらないだろ？」
「行きずりのセックスっていうのもなかなかいいじゃないか。」
僕は、おまえとは違うの。
「淫乱旅館とかでさ、こう、『あ、こいつを押し倒してみるか』っていう緊張感みたいなのが、捨てがたいものがあると思うけどな。」
「僕は、あんまりそういう趣味はないな。」
「そんなこと言って、よく俺と淫乱旅館に行ったりしたじゃないか。」
あれは、そういうんじゃなくて。
「淫乱旅館でできたことだってあるだろ？」
それは確かに、否定はできないけど。
「ひょっとしたら、いい人がいるんじゃないか、と思って行ってたんじゃないか。」
「でも、結果として行きずりだったわけだろ？」
「そんなことないよ、よくお茶とか飲みに出てたよ。」
「行きずりのお茶か？」
好きに言えばいいだろ。
「どっちにしたって、プラトニックだけじゃセックスにならないんだから。」
「だから、僕も体を否定してるわけじゃないさ。」
「とりあえず一発やってみて、その後で考える、っていう態度が正しいんじゃないかと思うけどな。」
「何を考えるんだよ。」
「もう一発やるかどうか、ってことか？」
「僕、今後は、おまえとつきあうのやめるよ。」
「そんなこと言うなよ。俺はこんなにおまえのことが好きなのに……。」
とてもそんなふうには思えないけど。