受話器の向こうの声が、ちょっと皮肉っぽく響く。
「最近、つきあってるんだって?」
あいつにそう尋ねられて、僕は、ちょっと迷ったけれども、
「うん……。」
一応素直に肯定した。
「僕なんか、ちょっと優しくされると、すぐ惚れちゃうんだよなあ。」
電話だと、相手の顔が見えなくて安心してしまうのか、結局正直に白状してしまう。すると、奴は、
「でもさ、優しくされたらすぐ惚れちゃうんなら、俺にだって惚れていいわけだろ?」
とんでもないことを言う。どうして僕がおまえに惚れなきゃいけないんだよ。
「だって、俺なんか、いつも、こんなに優しくしてやってるんだぞ。」
「それとこれとは別だよ。」
そんなことわかってるくせに。
「結局おまえは、自分が一番かわいいんだよな。」
どきっ。
「どういう意味だよ。」
「いいよなあ、惚れる相手がいて。」
「でも、まだ、どうなるかわからないよ。」
「だって、また会うんだろ?」
「そりゃあそうだけど。」
奴はちょっとため息をついて、
「俺なんか、最近、食欲がなくて……。」
なんて言う。
「?」
この前は、食い過ぎで最近太ってきたとか言ってなかったか?
「あ、本当の食い物の話じゃないよ。」
奴は、僕の沈黙に気づいて、あわてて弁解する。
「じゃあ、何の話だよ。」
と質問しながらも、僕は奴の答えそうなことはわかっていた。
「だから、最近、かわいい子を見ても、あんまり食おうとか思わなくなっちゃって……。」
それは、世間の平和のためには大変望ましいことじゃないかと思うけど。
「適当に食い散らかしてもいいんだけど、後がたいへんだから。」
その言い方はちょっとすごいんじゃないか。
「見てるだけで、満足できるんだから、俺も年食ったのかなあ。」
本当に見てるだけで満足するのかどうか、怪しい限りなんだけど、一応は本人の言っていることを信じることにする。
「食い散らかせるんなら、そうすればいいじゃないか。」
僕は、何となく奴がうらやましくて、ちょっと冷たい言い方をしてしまう。もちろん、うらやましいのは、『食い散らかせる』ことじゃないけど。
Dreaming Interlude(僕の悪友との電話)
火曜日, 4月 29, 1997