Love Letter

水曜日, 3月 31, 1982

―いったい、何を気にしてるんだよ。
―だから、何も気にしてない、って言ってるだろ?
―いいや、おかしい。おまえがむきになって言い張る時っていうのは、絶対何かあるからな。
―どうして僕がむきになってるんだよ。むきになってるのは、兄貴の方だろ?
―あっ、痛いなあ。そんなに強く握るなよ。おまえは興奮すると、すぐ、そういう非常手段に訴えるんだから……。
―……ごめん。
―そうそう、そういう握り方ならいいんだ。
―こう?
―馬鹿、手を動かしたら、変な気分になっちゃうだろ?話をそらそうったってそうはいかないぞ。
―だって、僕は何も思っちゃいないんだ。それを勝手に、兄貴が、ああだこうだ、理屈つけて……。
―俺は、事実を言ってるだけだぞ。きのうにしたって、俺が、あいつに話しかけられたら、それだけで露骨に嫌そうな顔をして、さっさと帰っちゃうしさ。
―嫌そうな顔なんてしてないよ。
―あれが、本当に嫌がってる顔じゃなかったんなら、おまえ、絶対役者になれるぞ。
―僕は、役者になんかなるつもりはないもん。
―おまえが嫌がるのはわかるし、まあ、もっともだとは思うんだ。だけど、きのうのあいつは、つき合ってる人とのことでごちゃごちゃしてて、それを俺に相談しようとしてただけなんだ。
―へえ。
―友達に相談されたら、知らん顔をしてるわけにはいかないだろ?……俺だって、たまにはおまえをかまってやれない時があるのぐらい、わかってくれよ。
―僕はもう、ガキじゃないんだからね。兄貴にかまってもらえないからって、ご機嫌が斜めになったりしないよ。
―あー、かわいくないぞ、そういう言い方。まるで、僕はガキだから、かまってもらえないと、ご機嫌斜めになっちゃうよ、って、そう言ってるみたいじゃないか。
―……ひどいなあ。兄貴は、すぐ、そうやって僕のことを馬鹿にするんだから。
―きのうのことは謝るから、そんなに怒るなよ。
―え?……僕、本当にそういうことで怒ったりしたんじゃないんだ。第一、怒ってなんかいないよ、本当だよ。……それに、こんなふうに、兄貴に腕枕してもらえるのは、僕一人だって信じてるから。あんまり当てにはならないみたいだけど……。
―こいつ。俺が、まるで、浮気してるみたいなこと言いやがって。

兄貴の胸、兄貴の声が直接響いてくる分厚い胸。兄貴の腹、僕の腕をゆっくり上下させて呼吸する腹。兄貴の腿、ざらざらと僕の脚をくすぐる毛深い腿。