Love Letter

水曜日, 3月 31, 1982

―目が覚めたか?
―……う、ん。
―おはよう。
―何……?!
―寝ぼけてないで、いい加減に起きろよ。
―いま、何時?
―七時、ちょっと前。
―まだ眠い……。
―眠くったって、そろそろ起きないと、朝飯を食ってる時間がなくなるぞ。
―朝飯なんか、どうでもいい。
―また始まった。朝食抜きは、体に悪いんだぞ。
―睡眠不足は、美容に良くないんだ。
―何を馬鹿なこと言ってるんだ。……だからきのう、さっさと寝ろって言ったのに、いつまでも、俺にじゃれてるからだ。
―だって、兄貴、自分だけさっさと眠っちゃうから……。
―こら、離せったら。俺はもう起きるんだから。……よせったら。
―兄貴のケチ。
―わかった、わかった。うるさいなあ。……これでいいんだろ?
―……もっと。
―いつまでもこんなことやってられるか。おまえだって、学校、遅れるぞ。
―休む。
―駄目、駄目。そういうのは俺が許さないからな。
―兄貴……?
―どうしたんだよ、今朝に限って。きのうはあんなにしおらしいこと言っておきながら、この甘えん坊が……。
―兄貴と一緒にいたいもん……。
―俺は会社、おまえは学校。仕方ないだろ?
―僕も会社へいっしょに行く。
―……馬鹿。ガキみたいなこと言って……。
―ガキでいいって言ったのは兄貴だろ?
―わかったよ。……だからとにかく早く起きてくれよ。遅刻しちゃうじゃないか。
―……うん。
―さっさと服着て……。あ、それから……、ほら、部屋の鍵。
―どういうこと?
―今日は、おまえも、俺の部屋へ帰ってこい、っていうこと。
―いいの?
―仕方ないだろ?おまえを部屋の前で待たせとくわけにもいかないからな。
―……。
―何、ニヤニヤしてるんだよ。気持ち悪いやつだなあ。
―ごめん、兄貴、わがまま言って。
―謝ってくれなくてもいいから、早く出かける支度をしろ、支度を。……朝飯は我慢するとしても、遅刻のほうは、会社のお偉いさんが我慢してくれないからな。

兄貴の『じゃあな』、素っ気ない別れの『じゃあな』。兄貴の真面目な顔、会社で机の前に座っているときにたぶんやっているだろう真面目な顔。兄貴の笑顔、独りでいる時はどうしても思い出せない僕の大好きな笑顔。