だけど、波は波な訳で、いつかはひく時があって、ある日突然に、斉藤さんは、また、俺の部屋に帰ってくるようになった。だから、俺も、以前と同じように、斉藤さんが帰ってきたのには気がつかないふりをして、
「ただいま。」
斉藤さんに、いきなり、後ろから抱き締められるのを楽しんでたりする。でも、仕事でストレスが溜まってたからなのか、それとも、俺っていう存在に慣れたからなのか、なんだか、斉藤さんのやることが前よりも卑わいで、現に、
「あっ、お帰りなさい。」
今日の斉藤さんは、俺を後ろから抱き締めるかわりに、卑わいな手つきで俺の尻を触ってたりする。もちろん、そのくらいなら前にもそういうことはあったんだけど、そのまま、斉藤さんは、俺の短パンをトランクスといっしょにずり下げて、尻の割れ目を露出させて、しかも、そこに、斉藤さんの舌が……。
「だ、だめだよ。」
後ろから抱き締められて、ベッドに連れ込まれたことはあるけど、台所で、こんなことをされるなんて……。
「気にせずに料理を作ってればいいじゃないか。」
一度、俺の尻から顔を上げて、斉藤さんは、そう言うと、今度は、俺の短パンをひざのあたりまで一気に降ろしてしまった。
「な、何を……。」
そして、俺の尻を抱えると尻の割れ目にぬめぬめした斉藤さんの舌が当たって、その上、斉藤さんの弾んだ息も当たったりする。
「あっ……。」
俺は、流し台に顔をつけるようにしてその感覚に耐えなくちゃならなくて、もちろん、料理どころじゃない。
「……。」
俺が、我慢できなくて声を上げるたびに、斉藤さんはうれしそうにのどを鳴らす。
「か、勘弁して、斉藤さん。」
俺が、かろうじてそう言うと、斉藤さんは、立ち上がって俺を後ろから抱き締めると、
「その呼び方はやめろ、ってあれほど言っただろ?言うことを聞けないやつは、お仕置きしなくちゃ。」
そう言って俺の耳たぶをかむと、俺をベッドの上に連行していった。
嵐のような快感が去っていって、斉藤さんに腕枕してもらっていると、やっぱり、俺は、幸せな気分になった。だから、
「お疲れさまでした。」
ついこの間までの自分の不機嫌状態は、100年も前の出来事のような感じだった。
「今回は、結構忙しかったけど、知がいてくれたから楽だったなあ。」
そして、俺は、思いがけない斉藤さんの言葉を聞かされたのだ。
「え?」
斉藤さんは、くすっ、と笑って、
「忙しくても、知がメール寄越してくれたりすると、すごくうれしくてさ。前はそんなことなかったのに、俺が頻繁にメールを受け取って、しかも、うれしそうにしてるから、よく『とうとういい人ができたんですか?』なんて、冷やかされたりして。俺は黙ってたけど、『どんな人なんですか?』って尋ねられるんで、しょうがないから、『うーん、手間がかかって、生意気な奴。』って適当に答えたんだけど、『忙しくてあんまりかまってやれないから、すごく不満みたいだよ』なんて言ったもんだから、かなり最低の女に入れ込んで貢いでることになっちゃって、それだけでも笑えちゃったよ。」
それはいいんだけど、別に、俺は、手間もかからないし、生意気でもないはずなんだけど。それに、そんなに不満そうな顔をしてたかなあ。
「まあ、いいじゃないか、どうせ、そこらへんは、冗談で言ってるんだから。」
うーん、真実とは違うけど、誰も、その『最低の女』が俺のことだなんてこれっぽっちも思ってなさそうだから、まあいいことにしよう。
「ありがとう、今回は、知のおかげで乗り切れたようなもんだよ。仕事に行き詰まっても、知のことを考えたら、なんとなく和む気がして、すごく助かった。」
ふと気づいたら、斉藤さんの顔が、目の前にあって、俺は思わず赤面してしまいそうになった。
「和む、って?」
俺のしゃべり方が、照れ隠しでぶっきらぼうになっちゃってるのに、斉藤さんは気づいてるだろうか。
「……俺が一番好きなのは、知の『そんなものなのでは?』っていう台詞かな。」
そ、そうかな、俺って、そんな台詞を吐いたっけ?
「仕事の不調も、知のその口調を思い出すだけで、そんなものなのでは、っていう気分になれて……。」
斉藤さんの顔が迫ってきて、ねっとりしたkissに、俺は、包み込まれてしまった。自分の予想しない形で斉藤さんの役に立っていたらしいことが、俺は、すごく恥ずかしいような何とも言えない気分だった。それにひきかえ、俺は、斉藤さんの忙しい時に、あれこれ自分で勝手なことを考えていたわけで、なんだかすごく申し訳ないような気がして、おわびの印に、っていうわけでもないけど、俺は、いつになく積極的にご奉仕する気分だった。とか言いながら、まあ、俺も嫌いじゃない、っていうことなんだろうけど。そのまま唇を斉藤さんの首筋に滑らせると、斉藤さんの身体が、びくっ、とけいれんするのがわかる。
「あ、ああっ……。」
俺に責められる時の斉藤さんは、普段からは想像できないような色っぽい表情をして、かつ、悩殺的な声を出して、俺を誘惑する。その斉藤さんの顔を見て声を聞くと、もっと色っぽい表情をさせたい、もっと悩殺的な声を出させたい、っていう気にさせられる。だから、自分の『乏しい』(これに関しては、指一本に付き十人ずつの両手だろ、とかって斉藤さんには言われちゃうけど)経験から得たテクを全て駆使して、知ってる限りの斉藤さんのホットスポットを責めた。たぶん、ずっと忙しくて溜まってたんだろうけど、斉藤さんは、いつになく激しく反応して、いつになくあっけなく、
「あ、だ、駄目だよ、知、いっちゃいそうだよ……。」
そう言って俺にkissをねだった。もちろん、俺は、手をゆるめることなく、そのまま、斉藤さんが全身を硬直させて、俺が、がしがし、しごいているものが、びゅっびゅっ、と射精するのを感じていた。
「ううっ……。」
俺は、自分の手で、斉藤さんが気持ちよくなってくれた、っていうことに、なんだかすごく深い満足感を感じていた。その証のように、斉藤さんの腹には、かなりの量が飛び散っていて、それをしみじみながめていた俺は、ふと、斉藤さんが北海道出身なことを思い出した。
「斉藤さんって、北海道出身でしたよね?」
まだ快感の名残の境地を漂っている斉藤さんは、
「うん、そうだよ?」
不思議そうな視線を俺に向ける。
「そうか……。」
北海道土産の『白い恋人』っていうお菓子はこういうことだったのか、と、納得しながら、俺は、さすがにそんなことは斉藤さんに言えないので(俺の思いついたことを斉藤さんに言ったら、もう、一生、俺は、下品で淫乱なやつ、っていう烙印を斉藤さんに押されちゃうに違いない)、そのかわりに、
「ありがとう。」
そう言いながら斉藤さんにkissをして誤魔化してしまった。
「俺のほうこそ、知がいてくれてよかったよ。」
何も知らない斉藤さんは、俺のことをしっかり抱き締めてくれて、
「また、晩飯食い損ねちゃったな。」
そう言いながらあくびをした。
「今から作るよ。」
俺はそう言って斉藤さんの腕枕から脱け出ようとしたけど、斉藤さんはすでに、柔らかな寝息を立てていて、結局、俺もあきらめて、そのまま斉藤さんの腕の中で眠りにつくことにしたのだった。
            (Rに)

2004.5.28.