目が覚めてしばらくの時、いったいどこにいるのか、理解できなかった。真っ暗な空間の中で、僕の目は、何かの目印を探したけれども、何も見えなかった。まだ眠ったままで重い感触の筋肉に必死の思いで力を入れて、寝返りを打ったら、時計の蛍光塗料の緑色が薄ぼんやりと光っていて、やっと、自分の部屋で眠っているんだ、ということがわかった。
―いったい、今、何時なんだろう……。
何とか時計を掴んで引き寄せると、真夜中の二時半過ぎだった。
―あんまりよく眠れなかったなぁ……。
全身がだるくて、眠る前よりもかえって疲れてしまったような感じがする。
―こんな時間に目が覚めても、困っちゃうなぁ……。
脳みその中の水分が流れ出してしまったようで、まともなことを考えられる状態に回復するには、まだしばらく時間がかかりそうだった。
頭の中が、妙に冴えた感じのする部分と、全く、目覚めていないほうの部分が、このまま動かずにいればまた眠れるだろうことを示唆してくれている。
―どうしよう……。
少し喉が渇いてもいたし、是非というわけではないにしろ、トイレに行ってもいいかなという感じがしていた。
―でも……。
普段なら、さっさと起き出して、体の中の眠っている部分を無理矢理、目覚めさせてしまうけれども、こんな重い気分を抱え込んでる時はもう一度眠ってしまうに限る、と本能が教えてくれる。
―二時半じゃなぁ……。
夜中に一人で起きていると、何だか一日分を得したような気になってしまうけれども、あの染み込んでくるような寂しさのことを思うと、眠れるものなら眠ってしまうほうが、この場合、賢明な選択に違いない。
一人で起きていたって、彼の声が聞けるのなら、そんなに寂しくもないのだろうけれども、もう僕には、寂しさを言いつける相手さえいないのだ。
―電話してみようかな。
今更、彼に、しかも、こんな真夜中に、電話なんかできっこないことぐらいわかっていたけど、そして、もし電話したとしても話すことなんかありはしないことぐらいわかっていたけど、彼のことを思い出すのは、僕にとっては、まだ、楽しいことだった。もちろんため息というおまけはついてしまうけれども……。
―やっぱり、好きだったんだなぁ……。
好きだからこそ、彼を好きになるのが不安だった。
―いったい、どのくらい僕のことを思ってくれているんだろう。
そう思ってしまうことが寂しかった。
―好きだよ、知……。
耳元でそんな呪文をささやかれても、なんと返事すればいいのか、戸惑ってしまうばかりだった。
結局、またしても僕は、寡黙過ぎたのかも知れない。
―そうだったのならいいけれど……。
素直な感情表現が、いったい、自分の味方なのかそうじゃないのか、彼で実験してみる勇気はなかった。
―まぁ、いずれは、こういうことになるんだ。
それじゃあ、彼とは、別れるためにつき合ったということなんだろうか。
―もう、むつかしいことはどうでもいい。
早く眠ってしまわないと、寂しい真夜中を持て余しながら起きている羽目になってしまう。
―こんなことなら、もっと腕枕をしてもらっておけば良かったな。
なんとかかんとか、再びうつらうつらし始めているくせに、なかなか、眠り込んでしまえないのは、きっと、彼が腕枕をしてくれないせいだ。
―馬鹿……。
僕がじゃれると、いつも彼がそう言って苦笑していたのを思い出して、僕の心は少し暖かくなった。
―ありがとう。僕も、愛してたよ……。
僕は、そうつぶやきながら、寂しさをまぎらせてくれる孤独な眠りについたのだ。