なんだかわからないうちに、僕は、彼に連れられてトリスタンを出た。てっきり、どこか別の店に行くのかと思ってたら、彼は、そのまま僕のことをタクシーに押し込んで、
「とことんつき合う、って約束したよな?」
僕にいたずらっぽく笑ってみせた。しかも、僕の手は、彼に握られたままだったりして……。
「……。」
この状況で、何を言えばいいのかわからなかったので、黙ったまま、ちょっとうなずいてみせた。彼と僕の乗ったタクシーは、夜の街の中をタイムマシンのようにすべっていく。いったい僕は、彼とどこへ行こうとしているんだろう。僕は、タクシーの中で、時間の感覚をなくしていた……。ほとんど夢見心地の僕が、やっとたどりついたところは、彼の部屋だった。玄関のドアを開けながら、
「滅多に男を連れ込んだりはしないんだ。」
彼はそう言った。その、彼のちょっとはにかんだような言い方が、僕には新鮮だった。
「じゃ、僕は、連れ込まれてるんだ……。」
彼に続いて玄関に入っていきながら、僕はそうつぶやいてみる。
「馬鹿なことを言うなよ。……自分の部屋じゃなくても、いろいろあるだろ?」
ってことは、自分の部屋じゃなきゃ、しょっちゅういろいろあるのかなあ、とは思ったけど、とりあえず黙ってることにした。キッチンに続いているドアを開けると、どんな想像とも違う、現実の彼の部屋がそこにはあった。
「ちょっとちらかっていて、悪いな。」
ざっとかたずいてはいるけれども、ベッドルームの籐のかごには下着なんかが乱雑に放り込んであったりする。ロッキングチェアの脇には、雑誌が何冊か山積みになっている。
「何か飲むか?」
僕がベッドに腰をかけていると、キッチンへ歩いていきながら彼が言った。
「うん。」
「……と言っても、ミネラルウォーターと麦茶くらいしかないけど……。あ、ビールもあるぞ。」
とことんつき合うのなら、もうちょっと酔っぱらってるほうがいいかな。
「ビール、がいいかな……?」
でも、結局、僕の希望は容れられなくて、彼は、透明なミネラルウォーターの入ったグラスを僕に手渡してくれた。
「あれ……。」
何も考えずにグラスから一口飲んで、僕はちょっと驚いた。
「発泡性のミネラルウォーターだよ。」
細かい泡が、僕の口の中ではじけている。
「ただの水なら麦茶で充分だから……。」
彼は、僕が驚いたことで、少なからず満足したようだった。
「へえ、自分で麦茶を作るんだ。」
ガラスのジャーにはいってる麦茶を見て、僕はちょっと感心してしまった。僕なんか、いつもPETボトルなのに。
「そうさ。水を沸騰させて、麦茶パックを放り込むだけだから、そんなに手間じゃないさ。」
うーん、それでも充分手間がかかっているような気がする。
 ベッドに座っている僕のすぐ隣に彼が腰を降ろした。ベッドのスプリングがきしむ音がして、ベッドがへこむのがわかった。僕はなんだか恥ずかしくて、彼の顔を見ることができなかった。僕の肩が彼の腕にゆっくりと抱き込まれて、目を閉じたままの僕は、自分の唇に彼の熱い舌が割り込んでくるのを感じていた。
「う……っ。」
どうしちゃったんだろう。僕って、こんなに感じやすかったかなあ。彼が耳たぶをかんでも、指で乳首をいたずらしても、手のひらで内腿を撫でても、どうしようもないくらい体がけいれんして、思わず声が出てしまう。恥ずかしいから我慢しようとしても、声が出るのを止められない。彼に、ぎゅっ、と握られると、自分ががちがちに堅くなっているのがわかった。しかも、彼の手がなめらかに上下し始めたのは
「ぬるぬるになってるぞ。」
彼の言うとおりだったからに違いない。僕の首筋をくすぐっていた彼の唇は、すっかり勃起している乳首を経由して、どんどん下に降りていった。そして、かすかに卑わいな音を立てて彼の手にもてあそばれていたものが、いつのまにか、彼の口に捉えられていた。
「あっ……。」
僕は両足を突っ張って耐えたけれども、そのなま暖かい感触に、思わず声を上げてしまう。彼は、僕の両腕を両手で押さえつけるようにしながら、僕の下半身を責め続けた。
「あ、い、いっちゃうよ……。」
僕はなんとか彼の口から逃れようと下半身をよじったけれども、がっちりと彼に押さえつけられていてどうしようもなかった。
「う、ん……っ。」
下半身を突き刺すような快感に真っ白になってしまった僕の意識は、彼が、ごくっ、と飲み込む音をかすかに聞いた。
「……。」
ゆっくりとキスをしてくれる彼の唇は、夏草の匂いがした。僕の唇を捕らえたまま、彼は僕の手に、彼の熱い勃起を握らせた。握ったものをゆっくりと上下に動かすと、それは、僕の掌の中で、ビクン、と大きく跳ね上がった。彼は、僕の胸にまたがるようにして、赤黒く血管の浮き出たものを僕に突きつけてきた。彼は、いきなり、ぐいっ、とのどの奥まで突っ込んできた。
「おお、すげえ……。」
僕は、息が詰まりそうになって、必死にこらえたけど、彼の感激したような声がちょっとうれしかった。彼の快感に僕の体が熱っぽく共鳴していた。