授業中も、電車の中でのことを思い出してしまって、ぼーっ、となっていた。もうちょっと正確に言うなら、頭の中は、ぼーっ、として、下半身の一部だけは、妙に敏感な状態になっていた。そのせいで、休み時間になっても、中途半端に突っ張っているものが邪魔になって、立ち上がれる状態じゃなかったりした。。
「どうしたんだよ、ぼーっ、として。」
だって……。
「なんでもないよ。」
哲也は、僕の机にもたれて、
「熱でもあるんじゃないか、顔が赤いぞ。」
本当に、熱があるかもしれない。
「さあ、どうだろう。」
哲也が僕をのぞき込むようにしたので、僕は、電車の痴漢大学生が僕よりちょっと背が高かったことを思い出して、どき、っとしてしまった。
「知恵熱か?」
哲也は、僕の額に手を当てたりして、僕の『知恵熱』の具合を調べている。
「だいじょうぶだよ。」
額を触られただけなのに、あの下半身のねっとりした感触を思い出してしまって、僕は、あわてて哲也の手を振り払った。
「なんだか、怪しいなあ。」
哲也は、腕組みして、僕のことをにらみつけている。
「本当に、なんでもないって。」
僕は、平常心を心がけたけど、下半身は、さっきの哲也の手の感触が響いて、完全に元気を取り戻してしまった。それも、変な方向に堅くなってしまって、ちょっと痛かったんだけど、哲也の見てる前で『位置』を直すわけにもいかないし、どうすればいいんだろう。
 僕はひたすら大人しくなってくれるのを待っていたんだけど、
「風邪じゃないのか?」
ついさっき自分の額にさわった哲也の手の温かさを思い出したりして、当分の間は勢いが衰えそうになかった。トイレに行くという手もあるけど、哲也が疑わしそうな目つきで僕のことを見ているので席を立つことができない。仕方なく僕は、見たくもない教科書を出して、それに没頭しているふりをした。哲也は、まだしばらく腕組みをしたまま僕を見おろしていたけど、次の授業が始まったので、やっと自分の席にもどっていった。
「やばかった……。」
僕は、授業が始まってしばらくはそのままの姿勢で固まっていたけど、まわりのみんなが教科書に顔を埋めているのを確かめてから、できるだけすばやく『位置』を直した。そうしたら、自分で触ったというのに、大学生の手の感触を思い出してしまって、
「いったいどうなっちゃったんだろう。」
僕は、ますます『知恵熱』だった。
 その状態は、昼休みになってもほとんどおさまりそうになくて、僕は、上半身で弁当を食いながらも、下半身では朝の興奮をくすぶらせているような状態だった。
「どうしたんだよ。」
哲也は、さっさと弁当を食ってしまうと、僕の前の席に座って、僕の顔をのぞき込むようにした。何とか午前中を乗りきった僕は、気がゆるんでいたのか、
「電車の中でさ……。」
うっかりため息混じりにそんなことを口走ってしまった。ところが、そのキーワードだけで、
「なんだ、痴漢にあったのか。」
鋭い哲也は、にやにやしながら、核心を突いた発言をした。
「え?」
ど、どうしてそれだけでわかっちゃうんだ?僕は、正直、しまった、と激しく後悔したけど、
「早く弁当を食っちゃえよ。」
哲也の目の輝きは、その後悔が手遅れだということを示していた。
「そういうわけじゃなくて……。」
僕がなんとかかんとか言い訳しようとしているのに、哲也はてんで聞いてなくて、僕が弁当を食い終わるのをうきうきしながら待っていた。
 そして、弁当を食い終わった僕は、哲也に引きずられるようにして、体育倉庫に連れ込まれてしまったのだ。
「こんなところで、どうするんだよ。」
僕は、改めて哲也が自分より少しだけ身長が高いことに気がついて、妙に不安になってしまう。
「こっちへ来いよ。」
マットなんかが積み重なって山になっている陰のところへ僕を押し込むと、
「電車の中でやられたのは、」
ちょ、ちょっと待てよ。
「こんなことか?」
いきなり、おおいかぶさってこられたので、僕は、避けることができずに哲也に唇を奪われてしまった。
「えー、これって、僕のファーストキスなのに……。」
ファーストキスなのに、こんな、濃厚なキスをしてしまっていいんだろうか。
「……。」
でも、哲也のこの手慣れた、というか口慣れた感じには圧倒されてしまう。
 僕は、つい、うっとりとなってしまって、いつのまにか、自分の腕を哲也の体に回してしまっていた。「ふっ……。」
それに気がついた哲也は、僕の唇から離れると、ちょっと、にや、と笑った。僕は、なんだか罠にかけられた子羊の心境だったけど、哲也の唇が離れていたのはほんの一瞬で、すぐに、また僕におおいかぶさってきた。そして、さっきよりも激しいキスをしながら、僕を体育倉庫の壁に押しつけるようにした。
「ううっ……。」
本当は、拒否しなくちゃいけないんだろうけど、体が全然いうことをきかなくて、僕は哲也のなすがままになってしまっていた。
「こんなこともされたのか?」
哲也は、乱暴に僕の下腹部を探って、いつのまにかすっかり元気になってしまっていたのを、ぎゅっ、と握り締めた。
「……あっ。」
僕は、哲也の手の感触を電車の大学生の手の感触にだぶらせて、どうしようもなく興奮している。
「こんなこともされたのか?」
そうして、哲也は、ベルトのところから無理矢理手を突っ込んで、トランクスの中にまで侵入した。
「よせよ……。」
僕の声は申し訳程度で、哲也の腕をつかんだ僕の手も、哲也の手の動きを阻止しようとするには程遠かった。
 僕が抵抗できないのをいいことに、とうとう哲也は僕のズボンまで脱がせてしまった。朝の電車の出来事から、僕の理性はどこかへいってしまっていて、
「やばいよ……。」
そう言いながらも、僕は、哲也の手でどんどん快感を登り詰めている。
「だ、だめだよ……。」
もうちょっとで、引き返せなくなってしまう。
「いいじゃないか、出しちゃえよ。」
哲也の手の動きはますます激しくなっていく。
「い、いっちゃうよ……。」
僕は、哲也とキスをしながら腰を突き出すようにして、びゅっ、びゅっ、と派手に噴き上げてしまった。
「ううっ……。」
僕はひざががくがくなって、自分だけじゃ立っていられなくて、哲也にもたれかかっていた。
「ふうっ……。」
僕は、いつのまにか哲也に抱き締められていた。
「こんなこともされたんだろう?」
そう言って、哲也は、もう一度僕にキスをした。今度は、ゆっくりと、僕自身も哲也の唇の感触を味わっていた。
「気持ちよかったか?」
哲也にそうささやかれて、僕は、素直にうなずいた。
 哲也に抱かれていると、やっとちょっと落ちついてきた。それとも、とにかく一発抜いたから興奮が冷めてきたのだろうか。今朝の電車の中からずっとどっかへなくしてしまっていた理性が戻ってきた。すると、僕は、ひざまでズボンをずらせて下半身をむき出しにしている自分の格好が、急に恥ずかしくなった。突き放すようにして哲也の腕の中から逃れると、まだ先端のところにねっとりしているしずくをハンカチで拭き取って、僕は、大急ぎでズボンを持ち上げた。シャツをズボンの中に押し込みながら周囲りの様子を見ると、
「あー、マットにかかっちゃったよ……。」
朝の満員電車からずっと刺激されっぱなしだったから、やけに飛んでしまって、かなりまともにかかっていた。
「だめだ。」
僕は、ハンカチで何とか拭き取ろうと努力したけど、すでにしみ込んでしまっていて、もうどうしようもなかった。
「どうしよう、汚点になっちゃうよ……。」
でも、哲也は平気な顔で、
「だいじょうぶだよ、誰も気づきやしないさ。」
床に飛び散ったのも、自分のスリッパで適当に塗り広げてしまって、
「さっさと行こうぜ。」
体育倉庫から出ていこうとしていた。
「ちょっと待ってくれよ。」
僕は、仕方なく、哲也の後を追った。
 哲也は、さっきまでのことなんか何もなかったみたいに平気な顔をして、体育倉庫の扉を開けて出て行こうとしている。僕は、哲也の後を追いかけながら、うつむき加減になってしまうのをどうしようもなかった。そうしたら、体育倉庫から二人で出て来たところを、体育の平林先生に見られてしまったのだ。
「やばいっ……。」
僕は、ほとんど真っ青になってしまったんだけど、
「こら、そんなところでタバコを吸うと火事になるぞ。」
あまりに脳天気な平林先生の台詞にどう答えればいいのかわからなかった。そうしたら、哲也は、
「違います。俺達、二人でエッチしてたんです。」
そんなことを平気な顔で平林先生に言うのだ。
「そうか、それは誤解した俺が悪かった。……じゃあ、使ったティッシュの後始末をちゃんとやっとけよ。」
平林先生も平気な顔をして、そこまで言う……。
「え……。」
僕は、今度は真っ赤になってしまった。哲也は、
「はーい。」
よい子の返事をすると、ぽけっ、としている僕の腕を引きずるようにして、
「早く行こうぜ。」
教室のほうに歩き始めた。僕は、完全にパニックで、赤面してうつむいたままだった。教室のところまで帰ってきて、僕は、やっと自分を取り戻して、
「よ、よくあんなことを言うなあ。」
と言ったんだけど、
「馬鹿、冗談に決まってるだろ。」
哲也はあきれたように僕の顔を見た。
「冗談、って……。」
じゃあ、ごわごわになってまだ湿っている僕のハンカチは何なんだ。
「だから、俺は冗談を言って、平林は俺の言ったことを冗談だと思ったんだよ。」
哲也は飲み込みの悪い僕のために解説をしてくれた。
「え?じゃあ、平林は、結局どういう解釈をしたんだ?」
僕は、今度平林先生に会ったときにどんな顔をすればいいのかわからなかった。
「そんなこと、俺が知るかよ。……タバコを吸ってたと思ってるんだろ。」
つまり、僕は、体育倉庫でタバコを吸ってたことになるのか。
「それとも、本当にエッチをしてたと思ってるかもしれないな。」
うーん、どっちにしても、今度平林先生にあったときは、目を合わせないようにしよう。 なんとか激動の一日を乗り切って、放課後になった時、
「今日、俺ん家に泊まりに来ないか?」
哲也は、さらっ、と軽く僕を誘った。
「今日?」
哲也が僕のことを気にして、わざわざ誘ってくれているのはよくわかってたけど、
「今日は勘弁してくれよ。」
さすがに、そういう気にはなれなかった。
「駄目か……?」
哲也が、ちら、と弱気な顔を見せたので、僕は、ちょっとあせって、
「ごめん、今日はなんだか疲れちゃって。」
正直に言った。
「今週の土曜日なら、僕の両親が旅行に行っちゃうから、哲也が僕ん家に来てくれよ。」
僕は、さすがに疲れちゃって、授業が終わるのを待ちかねて教室を出ようとした。
「もう帰っちゃうのか?」
哲也は、ちょっと不満そうだったけど、それ以上は追求しなかった。
「ちゃんと部屋の掃除しとくからさ。」
僕は、そう言い分けしながら、哲也を残して教室を出た。