たまの休みだから、俺が自分の部屋で、ぼー、としているというのに、
「おい、なんかして遊ぼうぜ。」
奴は、俺の部屋に顔をつっこむなりそういうデリカシーのないことを言う。
「なんか、って……?」
ガキじゃあるまいし、とも思うんだけど、
「テニスとか……。」
そんな体力残ってないよ。
「映画とか……。」
今、俺の見たい映画はない。
「ドライブとか……。」
結局奴のペースにはまって、引きずり出されてしまう。
「お前の運転なら考えてもいいよ。」
奴は、にこにこして、
「海がみたいな。」
あー、そうかよ、どこにでもつきあってやるよ。
「じゃあ、行こうぜ。」
まったく、自分の都合だけで行動する奴なんだから……。俺にだって、心の準備ってものが必要だ、っていうことをまったく理解していない。だいたい、俺はまだパジャマから一歩も脱却していないような格好してるんだから、このままで出て行けたりするわけないだろう?
それなのに、奴は、まだジャンパーが着られなくてもたもたしてる俺の腕を、無理矢理引っ張って行こうとするのだ。
「早くしろよ……。」
そんなこと言うくらいなら、ジャンパーを着るのを手伝ってくれればいいと思うんだけど、奴は間違ってもそういう思いやりを持ち合わせていたりしない。
「車なんだから、そういう重装備をしなくたっていいだろ?」
俺にだっていろいろ事情があるの。
「ごちゃごちゃ言ってないで、早く乗れよ。」
結局、俺はジャンパーをあきらめて、腕に抱えたままで、奴の車に乗り込む。
ドライブは、基本的に好きだ。助手席で楽しむドライブはもっと好きだ。やっぱり、車は、助手席に乗るものだと、改めて納得してしまう。もっとも、奴の運転だと、ときどき自分で運転したほうがましだと思うこともあるんだけど……。
「やっぱり、海だよなあ。」
でも、今日の奴の運転は、比較的スムーズで、この調子なら、どこかの海岸にたどりつく前に、一眠りできそうな気がする。
「ちゃんとナビゲータやるんだぞ!」
俺がシートを倒して睡眠体制に入ろうとすると、奴は嫌な顔をした。
「だって、俺、今日は眠くって……。」
『健司君』に腕枕をしていたから、あんまりよく眠れなかった。
「夜遊びが過ぎるんだよ!」
なんだよ、おまえだってついこのあいだ『幸介君』を連れ込んでたじゃないか。俺が、深夜残業だったときに……。
それに、俺なんか、ちゃんと誤魔化しのBGMをかけてたんだぞ。もっとも、『健司君』は、そんなに派手によがったりはしなかったけど……。
「俺なんか純情だよ……。」
だから、俺の台詞はなんだかよくわからない言い訳だったりする。それなのに、
「純情な奴が男を連れ込んだりするのかよ……。」
奴は、がはははは、なんて笑ってみせたりするんだけど、そういうのって、純情な少年に対する挑戦なんじゃないかと思う。
「連れ込んだわけじゃ……。」
俺がぼそぼそ言ってると、
「やっぱり、海はよそうな。」
奴は、勝手に進路を変更してしまう。これでどうして、俺がナビゲータやらなきゃならないんだよ。
でも、恐ろしいことに、奴が車の進行方向に選んだのは、えらくけばけばしく飾りたてた建築物だったりする。
「お、おい、まだ、明るいんだぞ……。」
俺は、あせっちゃって、奴に思いとどまらせようとしたんだけど、
「昼間の方が値段が安いだろ?」
全然わかってなかったりする。
「えー、俺の貞操はどうなるんだよ。」
我ながら、どうかしてる台詞だとは思うんだけど、場合が場合なもんだから、まともなことを思いつかない。。
「そんなもん、もともとないだろ。」
俺にだって、本当に純情な頃はあったんだぞ。
「じゃあ、今は純情じゃないんだろ?」
そういう問題じゃないだろう?
「……。」
いったいなんなんだよ、なんておたおたしてる俺を、
「冗談だよ。」
奴は横目で嘲笑いながら、ゆっくりとハンドルを右にきって、ネオンサインでふちどりされた建物の入口を素通りした。
俺はしばらく放心状態で、我ながら自分の子供ぶりに感心してしまったりした。
「もう帰ろうか。」
そんなだから、奴がそういう勝手なことを言い出しても、反論する元気もなかったのだ。
「……。」
ほうっ、とため息をついている俺を、
「だいじょうぶか?」
奴はかなり面白がっていて、にやにやしてたりするんだけど、だいじょうぶじゃないのはみんなおまえのせいだろ!俺は、もう、頭痛がしてしまって、人生のはかなささえ感じていたりした、って、俺もそこまで初心じゃない。それで結局どうしたのかというと、情けないことに、
「……に寄って行こうか。」
某大型量販店の名前を奴は口にした。
「そんなとこに寄ってどうするんだよ。」
どうせそんなところだろうとは思っていたけど、
「飯のネタを買って帰るのに決まってるだろ?」
俺は、飯を作る気はないからな。
「俺が作ってやるよ……。」
その、顔面神経痛みたいなウィンクはよせよ。